「先生は、」

「ん?」


小さく首をかしげる陽日先生に「彼女とかいないんですか」と訪ねてみた。すると飲んでいたお茶をそれはもう思い切りふきだしてとてもわかりやすく動揺していた。


「なななな何をいきなり」

「いや、とくに理由はないんですけど…なんとなく?」


「そ、そうか」と小さく呟いた先生は真っ赤な顔を見られないようになのかふい、と顔をそらした。残念先生、耳も真っ赤だからばればれです。
そう思ったけれど言葉にはしないで先生にばれないように少しだけ笑っていたらぽつり、消え入りそうな声が聞こえた。


「よく、わかんなくて」

「え?」

「恋だの愛だの、よく分からないんだ。だから彼女もいないし」


恋もしないよ、そう言った先生の後ろ姿がなんだかとても寂しそうで思わず手を伸ばしていた。


「!?え、あ、名字!?」


腕の中で先生がばたばたと暴れるから少しだけ力を込めてぎゅうと抱きしめれば先生は急に腕とか足とかの動きを止めてすっと大人しくなった。
赤みのひいたはずの耳がまた真っ赤に染め上がってるのを見てくすくすと笑いをこぼしたらむっとした様子で先生がこちらを向いた。自分で抱きついておきながらなんだけど顔が、近い。


「わ、笑うな!というか…なんだいきなり、だ、抱きついたり…して…」

「なんか、先生が泣いてるような気がして」

「泣くわけ、ないだろ」


私の言葉に目を見開いて少しだけ驚いた顔をした先生は言葉とは裏腹にやっぱり泣きそうな顔をしていた。

その顔に、また、なんだかずきんと胸が痛むから先生にまわした腕に力を入れて優しくぎゅっと抱き締めてみた。



ここで眠ればいい

(あなたに優しくありたいと思った)





title by:確かに恋だった
(110528)




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