太陽みたいな人だと、思った
くるくる変わる表情とか子供みたいに走り回る姿とかそして光に反射してキラキラ輝く橙色の髪とか何もかもがまぶしくてああ、太陽みたいだな。と
科が違うってだけで接点は少ないものだ。
私が先生を見かけるのもそんなに多いことじゃない。でも、たまに見かけたときはいつもこれでもかって位の笑顔を見せていて、かと思えば怒ったり、泣いたり。見ていて飽きなくていつの間にかその印象的な髪の色を視界の端にとらえたような気がしただけでそちらを振り返ってしまうほどになっていた。なんだ、これ。
そんな日常だったのだ。まさかその太陽が目の前で寝てる場面に遭遇するなんて思いもしなかった。
すーすーと規則正しい寝息をたてて眠る陽日先生は幼い顔や身長のせいで私と同じ生徒みたいだ。恐る恐るだけどゆさゆさと体をゆすってみてもまったく起きる気配はない。机に積まれたプリントは回答欄は記入済みの小テスト。採点してたらそのままうとうとと、という感じだろうか。
「どうするべきか…」
ぽそりと呟くと開けっぱなしの窓から少し冷たい風が吹いてきて陽日先生の髪を揺らす。揺れる髪の様子がまるでたんぽぽみたいで気が付いたら手を伸ばしていた。
ふわふわ、そう形容するのが正しいんだろう。陽日先生の髪は太陽の光を持っていながら、とても柔らかかった。
「んむ…」
流石にこれ以上は起きるだろうと手をひっこめた直後、陽日先生は小さく声を漏らして目を開けた。目をこすって伸びをしてあたりを見回して私に焦点を合わせる。そんな一連の動作を見届けてからぱちぱちと目を瞬かせて状況を理解しようとしている先生におはようございます、と一言声をかけた。
「おは、よう?……え?」
「こんなところで寝てたら風邪ひいちゃいますよ」
「ああ、うん……って、うわっ!もうこんな時間!っどあああああ!!」
赤く染まる空を目に写した先生はがたりと立ち上がると叫ぶ。きっと眠る前はまだ青い空だったんだろう。だけどその衝撃で机が揺れて積まれていたプリントは床に散らばる。突然の出来事には対応しきれないのかおたおたとしている先生に少しだけ笑いがこぼれた。失礼かもしれないけど、どうやらはたから見て思っていたのよりももっと子供のようだ。
笑いを押さえてプリントを拾おうと私がしゃがむと先生もはっと気づいたようにしゃがみこんでプリントを集める。
とんとんと集めたプリントの端を整えながらふいに先生のほうに目をやるとばちっと先生と私の視線がかみあった。
「ごめんなー、名字」
「……え」
「こんなとこで居眠りしたうえ生徒に迷惑かけちゃうとはなあ。申し訳ないっ!」
ぱちん、と音をさせて顔の前で手を合わせて謝罪する陽日先生の言葉に反応できないまま今聞こえた言葉を頭の中で反芻させる。
そんな私の様子に気付いたのかおーい、どうしたー?なんて言いながら手をひらひらさせる先生。どうして
「いま、なまえ…」
「え?ああ、覚えてるぞー。流石に全校生徒は無理だけどなっ!自分の受け持った学年くらいは、と思って。それにこの学校女子は少ないから。名字名前、だろ?」
一方的に私が知ってるだけだと思ってたのに、まさか名前を知られていたなんて。正直、予想外すぎた。
その口から紡がれる自分の名前がなぜかものすごく素敵なものに思えてくる。
きっともう一度その太陽のような笑顔で、呼びかけられたら後はもう、落ちるだけ。
逃げ出してしまいたい
これが「 」だと気づく前に
(110217)