※bitterSeasonネタ、捏造注意







「梓梓!それ私にもやらせて!」


私の声に振り向いた梓は眉を怪訝そうにひそめて私の言う「それ」の意味を理解していないようだ。それ、ともう一度せっかく着つけたのにとれてしまっている翼の帯を指さして言ってみた。

翼と梓がやっていたのは時代劇でよくある「あ〜れ〜お代官様〜」「よいではないか、よいではないか」なんていう掛け合い。
まあ、翼だけが楽しんでて梓は思いっきり棒読みなんだけど。


「おお!名前もやるか!?」


嬉々として私の帯に手を伸ばす翼の頭をごんっと音がするほど強く殴った梓は「何言ってるんですか」と呆れたように私に目を向ける。
隅っこで涙目になりながら唸っている翼をみれば音通り相当痛かったらしい。


「まって!怒らないで!私はお代官様の役がやりたいのです!」


きっと勘違いしているであろう梓に両手をSTOPとでもいうように突き出して弁解してみる。それでもやっぱり梓の表情は怪訝なままでため息をひとつつくとしょうがないですね、と言って自身の帯を差し出してきた。


「僕のでよかったらどうぞ…その代わり」

「やった!よいではないか、よいではないか〜!」


了承を得た嬉しさにそのあとに続く言葉をちゃんと聞かなかったのがいけなかった。
いきなりまわされたのに驚いたのかうわっと小さな悲鳴を上げてぐるりと回った梓はにこりと笑んで私を見た。


「人の話は最後まで聞いた方がいいですよ、先輩」

「え?何か言ったっけ?」

「はい。その代わり僕にもやらせてくださいね?って言いました。」


笑顔で何を言い出すんだこの人は。
まあ普通の時代劇ではこの女の人が帯を引っ張られるという構図が正しいんだけど…なんて考えていたらいつの間にか梓の手は綺麗に締められた私の帯をつかんでいた。
ちょっと待て、さっき私が帯で回されたいと言ったと勘違いした時は時は怒ったじゃないか!なんて苦しい言い逃れをしてみたけど、


「さっきは翼がやろうとしてたからです。僕は先輩の彼氏だからいいんですよ」


なんてあっさりかわされてしまって、翼にでも助けてもらおうと先ほどまでうずくまっていた場所を見るといつの間にかいなくなっていた。
楽しそうな笑い声が聞こえるのできっと生徒会メンバーとでもしゃべっているのだろう。
ああ、もう逃げ場はない。
引っ張られるがままくるりと回れば運の悪いことにそのまま足をもつれさせて転倒してしまう。
お腹を締めつけていた帯の感覚はなくなった。


「ちょっと待って梓!」

「大丈夫ですよ、僕がまた着せてあげます。」

「そうじゃなくて!みんないるから!」


迫ってくる梓に焦りながらも、なんとか状況を思い出させると拗ねたような顔を見せたかと思えば、「ちぇー」なんてあからさまに残念そうなそぶりを見せる。


「先輩から誘ったくせに…」

「誘ってないっ!」

「まあでも、みんながいなければいいって事ですよね?」


そんな事を言ってにやりと笑った梓は帯が解けて露わになった私の鎖骨あたりに顔を近づけてキスマークを残す。


「な…っ!」

「ほら早く立ってください。帯締め直しますから。」


驚いて声を上げるも私を驚かせた当の本人は何事もなかったかのように立ち上がると私に声をかけてくる。このままからかわれ続けるのも癪なのでこちらも余裕な態度を見せてやろうじゃないの!と意気込んで立ち上がり梓に帯を締めてもらう。

よし、と呟いて綺麗に形の整った帯をぽんと叩けば私に終わりましたよ、と声をかけてきたのでありがとうを言おうと振り向いた瞬間に目に飛び込んできたのは梓のにやりと笑った顔。



「続きは後で、二人っきりの時に。」








(110102)




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