あまり人気のない体育館裏。きこえてくるのはその中で練習しているであろうバレー部やバスケ部の声と、シューズが床を駆け抜けるきゅっという小気味いい音だけで、妙に緊張する。人を呼び出すのにここまでベタな場所を今時選ぶ人がいるのか、なんて言われたらここしか思い付かなかったんだと反論するしかない。

靴箱にいれたメモはきちんと彼に届いただろうか。私が開けたときには既にいくつかのチョコレートと思われるプレゼントが詰まっていた菊丸くんの靴箱。そっと手前に置いた小さなメモが後からまた増えるだろうチョコレートに潰されてしまわないといいけれど。

そわそわと辺りを見回しながら待っていると、ざっざっと土を蹴る誰かの足音。ついに待ち人来たり。一気に心臓の音が大きくなって、手が震えてしまう。ぱっと視界に入ってきた人は思った通り私が呼び出したその人で、きょろきょろしながら少しずつ近付いてくる彼に意を決して声をかけた。

「き、菊丸くんっ!」

「あ!どったの苗字さん〜俺に用事って?」

「いきなり呼び出してごめんね!え、とね、」

つっかえつっかえ喋る私の言葉を、うんうんって頷きながら聞いてくれる菊丸くん。未だ忙しなく動き続ける心臓をおさえるために、深呼吸をひとつ。

「テニスをしてるあなたが大好きです!」

少し早口になりながら、昨日から用意していた言葉を口にする。私が差し出したストライプの包装紙に包まれた四角い箱をまじまじと見た菊丸くんは「俺…?」なんてきょとんとしながら自分を指差しているから、こくりと頷いてみせた。

「うわ、えっと、ありがと、その、すっごく嬉しい!」

途端にほっぺたを赤くしてわたわた慌てだす菊丸くんの反応に、ちょっとびっくりした。だって告白とか、そういうの、され慣れているんだとばかり。

「これ、伝えたかっただけだから、受け取ってくれてありがとう」

それじゃあ、そう言ってそこから立ち去ろうと菊丸くんに背を向けると、後ろからがしりと腕を捕まれた。

「今すぐには無理だけど、ちゃんと、返事、するから!」

「え、い、いいよ!そんな、私はほんとに、受け取ってもらえただけで…」

「ううん、こんな風に真っ直ぐ言ってきてくれる子あんましいないから。すっげえ嬉しかった!だから、俺もちゃんと考える、」

待ってて、真剣な瞳で告げられた言葉に思わずこくりと頷いた。勇気を出して、よかった。きちんと菊丸くんの心に、ずっとあたためてた思いが伝わったことが嬉しい。



その夜に、震える手で携帯を操作して交換したメールアドレスから、メールが届いた。

『よかったら、今度の練習試合、見に来ない?』

行きたい!!勢いで打った返信を、そのまま送ってしまったのは悔やまれるけれど、そんなのふっとんじゃうくらいに私の心は浮かれていた。ああ週末が待ち遠しい!



130312/企画参加ありがとうございました!!




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