目の前で繰り広げられる信じられない技の応酬に目を回しそうになりながら、必死に記録をとる。たまに駆り出されるマネージャー業はそんなに難しいものではないけれど、スコアの記入だけは毎回毎回体力を使う。やっと向日くんと芥川くんの試合が終わって跡部くんの一言で休憩時間となった。
毎日こんなにハードな練習をして、男の子の体力って底知れないなあなんて、感心しながらさっきまで書き込んでいたスコアボードをぺらぺらとめくっていると、おぼつかない足取りの芥川くんが此方へと歩いてきて、私の隣に腰をおろした。
「おつかれさま」
「ん〜」
「大丈夫?」
「超疲れたC〜、眠い〜」
「休憩だしちょっと横になったら?時間になったらおこしてあげるよ」
「そーする〜」
「うん、おやすみ芥川くん」
大きく口をあけて欠伸をした芥川くんがごろりと横になったので、眠るためのスペースを広げてあげようとベンチから腰をあげると、歩きだそうとする前に手首をがしりとつかまれた。
「名字はここ座ってて」
「え、でも、狭いよ?」
「だいじょーぶ!」
つかんだ手をそのままぐいと引っ張られて、また元の場所に戻ってしまう。「俺はこうやって寝るから」そう言ってにこって笑った芥川くんは私の膝の上に頭をのせて目をとじる。ふわふわした髪の感触が直にふとももに伝わってきて、くすぐったい。「おやすみ〜」って、芥川くん!寝ちゃだめ!
「あああ芥川くん!」
「ん〜?名字うるさいC〜…」
「あ、ご、ごめんね…って!そうじゃなくて!」
焦りながらもなんとか芥川くんをおこそうとするけど、既に静かな寝息をたてながら眠ってしまったあとで、こうなってしまったらもう簡単には起きてくれないだろう。
「どうしよう…」
眠る芥川くんの顔はとってもかわいくて、ついついその頭に手が伸びる。ふわりと優しく撫でてみせると、芥川くんは幸せそうに口元を綻ばせた。
傍らに置いておいた膝掛けをそっと芥川くんにかけてあげて、とりあえず時間になったら樺地くんに起こしてもらえばいいか、と、このかわいい子を甘やかすことに決めた冬の日の午後3時。
(130215)