「亮ちゃんおかえり〜」

自分の部屋の扉をあけて、目に飛び込んできた光景に頭を抱える。 またかよ、と呟いてため息をつくと、俺のベッドを占領している幼なじみのそいつが不満そうな声をあげる。

「人の顔見てため息つくなばかー!折角会いに来てあげたのに〜!」

これだから亮ちゃんは、昔と変わらないその名前の呼び方は中学生にもなった男子にはなんとなくくすぐったい。きっとこいつの中では俺たちは昔と何もかわらなくて、男としての認識もないんだろう。その証拠に、今まさに健全な中学生男子のベッドに、冬なのに寒くねーのかってくらいのミニスカートで寝転んでいたりする。なんて無防備。

「お前さあ…」

「あーあ、やっぱじろちゃんかがっくんのとこ行けばよかった〜亮ちゃん意地悪なんだもん」

「……はいはい、つーか聞け」

「はーい、なに?」

「ここ一応男の部屋だから、ちょっとは危険意識もてっつーの。ジローや岳人んとこ行くときも一緒」

え〜なんて唇を尖らせて言う名前からはお決まりの台詞。幼なじみで小さい時からずっと一緒にいるのにそんなんないって。幼なじみ、その呪縛に俺らがどれほど縛られているか。私なんて女に見えないでしょ、名前は笑ってそんなこと言いやがるけど、そんなわけがない。

むしろ他の奴らなんかより意識してる。きっと。

少しずつ女に近づいていくのを見てて、いつの間にか俺たちのほうがでかくなって、ああこいつのこと守ってやんなきゃなって。

「俺は、お前のこと女として見てるよ」

真剣な顔でそう言って、未だ起き上がろうとしない名前の腕をベッドに縫い付ける。ほら見ろ、抵抗なんてできないくらいに弱いくせに、

「や、やだ亮ちゃん…!」

「あんま無防備だと、襲われてもしらねーぞ」

「ね、ねえ、顔こわいよ…?」

そんなこと言って、ここまでやって、結局何もできない自分が憎たらしい。せめてもの抵抗におでこに軽くキスをしてやると、細い肩がびくりと震えた。

「俺だって男なんだよ、わかったかばーか」

名前は緩めた力の隙間から凄まじい勢いで逃げて俺の部屋を飛び出した。あーあやっちまった。きっと明日にはジローにも向日にもばれてんだろうなあ。明日起こりうるであろう惨劇を想像して憂鬱になりながらも、名前を追いかけて俺も家を飛び出した。



(130119)




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