『今日、夕方学校来い』

相変わらず愛想なんかまったくなくて、要件のみの素っ気ない阿部からのメールに、少しだけ笑いがこみあげてくる。阿部が絵文字やデコレーションなんか使ってきたってそれはそれで面白いけれど、男子といえどもここまで味気ないメールは初めてだ。件名が『Re:2』なんてあたりがまた阿部のずぼらさを実感できて面白い。普段から面倒くさがりそうだなとは思っていたけれど、こうしてメールのやり取りまでするようになってから、また新たな一面を発見した気がして、自然と口角があがる。

「ていうか、学校って」

はたと気づいてもう一度本文を見返すと、確かに書かれている学校の文字。今日は日曜日で、学校に行く人なんてほとんどいないはず。確か野球部は日曜も練習あるんだっけ?誰かからきいたような情報をぼんやりと思い出して、じゃあたぶん阿部は今日学校にいるんだろうなと結論づける。そうだとしても、私が呼ばれる理由が書いていない限り、なぜ?という問いは消えないのだけれど、まあ特に用事があるわけでもないから、と休日に着ることなんか滅多にない制服に袖を通した。






「名前ちゃーん、電話〜」

靴を履いてさあ行こうとした矢先に、お母さんに呼び止められる。せっかく履いた靴を溜息まじりにもう一度脱いで、電話口へと急いだ。

『ごめん、どっか出かけるとこだった?』

「いや、いいよ、時間まだまだあるし」

受話器から聞こえてきた声は小学校来からの友人のもので、彼女は今から私の家に来るつもりだったらしい。それはタイミングが悪かった、と、事情を説明して謝ると、彼女はなんだかにやにやした声でふーん、とつぶやいた。

『名前も、ついに?』

何もかもわかってますよ、そんな声が聞こえてきそうな雰囲気に、なんのこと?なんて笑ってごまかしてみたけど、通用するとは思わない。まあ、いいや、それより、そういった彼女は、本当の要件を私に伝えた。ああ、そうだった、今日は、





***



制服のままぶらぶらと遠回りをして、学校についたのはちょうど指定された夕方のころだった。ゆっくりと向こう側に落ちていく夕日は毎日見ていても幻想的で、白い雲の色が赤く染まっているのがとてもきれいだ。

柄にもなく感傷に浸って夕焼けなんか眺めていると、遠くのほうから野球部らしき挨拶の声がきこえてくる。今日は珍しく早く終わるらしい。いつもあたりが真っ暗になるまで練習しているらしいという噂を初めてきいたときには、大変だねえと他人事のように呟いた覚えがある。

校舎から少し遠くにある野球部のグラウンドに足を運んぶと、フェンスに近づいた途端に水谷くんの声が響いた。あれ、名字さんじゃーん!どうしたの?なんて、ちょっとやめてほしい。ほらみんなこっち見ちゃったじゃん!どこか隠れるところを探しているうちに、いつかも聞いた覚えのあるスパイクの足音が近づいてきて、私の名前を呼んだ。

「あー、なんかワリぃ、急に」

「いや、いいよ!暇してたし!」

なんか用事だった?そうきくと阿部は視線をそらして、野次馬のようになっている野球部員たちを眺めて舌打ちした。

「あのさ、」

「うん」

「誕生日おめでとうございます」


え、と一言だけ声が出た。だって、まさかの展開過ぎて、ちょっと頭がついていかない。いや、花井からきいて、そんな風に言い訳する阿部の言葉も聞き逃してしまいそうなくらい混乱していた。なんで知って、ああうん花井からきいたって、え、でもなんでわざわざ、ぐるぐると脳をフル活用させて答えを探しだそうとする。

「あ、ありがとうございます」

「つーか、なんかやっぱ急にワリぃ。これ言うためだけに呼び出すとか無しだったな!」

こないだお前元気なさそうだったし、したら水谷がお祝いしてあげたらちょっとは楽しい気分になるんじゃないとかなんとか、必死にしぼりだした私の言葉に、阿部が言葉を重ねる。普段あまりしゃべらない阿部の言い訳というか弁解というか、そのいっぱいいっぱいな姿はなんだかとてもかわいくて、どうやら私の思いの度合いを一気に引き上げてしまったようで、

「ねえ阿部くん」

「おう」

「私阿部くんのこと好きなんだよね」

ぽろりと出たしまっておくつもりだったその言葉に、目をまんまるにさせる阿部がこれまたかわいくて、笑いが込み上げてきた。

ああこれからまた楽しくなりそうだな、なんて。



青空に映える






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