すきなんだと確信したとたんに、なんだか世界が変わって見えた。朝はいつもよりすっきり目が覚めるし、朝ごはんもいつもよりおいしく感じる。こんなことで幸せになれちゃうから、恋する女の子っていうのはあんなに素敵に見えるのだろうか。
昨日で終わった週番という役割は、私の中に大きな爆弾を残していった。けれどたぶんあれは自覚するきっかけにすぎなくて、随分前から、きっと私は阿部がすきだったのだ。入学式であったときか、あの子に連れられて野球部の練習を眺めたときか、覚えてはいないけれどきっとそう。この気持ちは前からここにあって、そうして今やっと窮屈な箱の中から飛び出してきた。
あとから花井にきいた話だけど、あの女の子の告白を、阿部は断ったらしい。今はそういうのいらないって、阿部らしいよな。そういって笑った花井の言葉に、安心した。阿部の言葉からしてみれば、私にもチャンスなんてないのだけれど、とりあえずは、一生懸命野球やってる阿部のことを見ていたい。そう思った。
電話帳の一番上にくる阿部隆也の名前にほんの少し心が躍ってしまうあたり、もうだいぶ重症なんだなあと自分でも笑えてくる。そのままアドレスを引っ張り出して、メール作成画面を開く。
『おはよう、部活がんばれ』
簡素に、それだけ打ったメールをぎゅっと目をつぶって送信ボタンをおした。きっと目をあけていたらすぐに〈中止〉ボタンを探してしまうから。別にすごく仲がいいわけでもないし、こんなメールを送るのは少し、いや、大分恥ずかしいけれど、阿部に何か言われたら、せっかく交換したんだからなんかおくろっかなって思って、とかなんとか、いくらでも言い訳してやろう。
『おはよう、さんきゅ』
約10分後に帰ってきたメールは私にも負けず劣らず素っ気ないものだったけれど、世界が変わって見えたみたいに、そのメールも少しきらきらかがやいて見えた