教室の扉の方から、阿部を呼ぶ声がする。当の本人はぐっすりと眠ってしまっているから、しょうがないなあと後ろから椅子を蹴ってやった。がつん、と音がして阿部の体が揺れる、と同時に私の足に鈍い痛み。ああ少し打ち所が悪かった!

「お前何すんだよ…」

いつものあの怒った顔で阿部がにらんでくるけれど、眠気のせいかあまり覇気のないその顔じゃあ、ちっとも怖くはない。あっち、と言ってさっき声のしたほうの扉を指さすと、花井がこっちにむかって歩いてくるところだった。どうやら阿部を呼んでいたのは花井らしい。阿部は悪い、寝てた、と自分の席までたどりついた花井に謝ると、で?と話を促した。別に秘密にしなければならないことを話している感じでもなかったので、さりげなく話を聞いていると、どうやら女の子が阿部のことを呼んでいるらしい。ちらりとそちらのほうを覗き見て、どきりとした。

ああ、あの子の目は、

同じ女の子ならすぐにわかるくらいに、あの子はまっすぐに阿部を見ていた。なぜか胸がぎゅっと痛くなって、その子の元へ向かう阿部の背中を見て、どうしてか泣いてしまいそうだった。どこからわいて出たのか、とても自然に花井の隣に並んだ水谷くんが「告白かな〜いいな〜」なんてつぶやくのをきいて、気付いたら教室から逃げ出してた。



***




5限6限と授業をさぼってさっさと帰ろうとしたところで、担任につかまってお小言をくらう。ごめんなさいとあまり感情のこもってない言葉でその会話を終わらせるて教室に戻った。

がらりと開けた扉の向こうには、なぜか阿部がいて、遅ぇ、なんてもうこの一週間で何度も見た顔をして、机の上に広げられた日誌を指さした。

「…ごめん、私やっとくから阿部くん部活行ってていいよ」


「はあ?何のために待ってたんだよ。今日で終わりなんだからちゃんとやるっつーの」

なんでこんなところでこの人はやさしいんだろう。前にも思ったけれど、そういうところ、すごくすごくずるい。
最後のコメントの欄を交互に書いて、記入し終わった日誌は、阿部の手に奪われた。あ、と小さく発した声で、こっちを向いた阿部と視線が完全にかみ合う。あ、なんでだろう、また泣きそう。あわせられた視線をまっすぐに私の目を見ていて、なんだか全部見透かされていそうで、でも怖くてそらせなかった。

そうして、ふい、と視線を外した阿部は、そのごつごつした男の子そのものの、がんばってる人の手で、私の頭をぽんぽんとたたく。

「じゃ、おつかれ」

馬鹿野郎。そんなことするから気付いてしまった。部活に行く阿部の背中を見送って、それからひとり溜息をついた。そうして私は、自分が阿部隆也という男の子のことがすきなんだと確信した。








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