キーンと心地よい音を立てて、ぐんぐんと近づいてくる白球から目が離せなかった。綺麗な弧を描いて飛距離を伸ばしたそのボールは、私の足元に落ちる陰の中にころりと転がりこんでくる。土で汚れたボールを手にとって、縫い目を指でなぞってみると、砂のざらりとした感覚が伝わって、どうしてか心臓がきゅっとなった。スパイクが地面を蹴る独特の音をとらえて、音の聞こえてきたほうに目をむけると、どうやら野球部らしい。ボールと同じように土で汚れたユニフォームをきた男子が走ってくる。おーい、と一言声をかけて、手元のボールの所在を確認してから、きゅっと握りしめてそいつめがけて投げてみると、ボールは全く見当違いの方へと飛んで行った。それなのに、大暴投したそれを野球部さんは追いかけてしっかりとキャッチしたりするから、なんていうか、青春の眩しさを感じて目を細めた。今年新設したらしい一年生だけで構成されている西浦高校野球部は、一年生ながらとてもとても頑張っているらしい、ということを野球部に気になる人がいるらしい友達からきいたのを思い出した。

「おい、」

「え、はい」

目的のボールを受け取って去って行ったと思っていた野球部の彼は、どうやら立ち去ってはいなかったらしい。むしろさっきよりも近くにいて、私に話しかけている。なんだろう。もう持ってないよ、そう言ってその証明をするように手のひらを広げて見せると、そうじゃなくて、と彼はまた口を開いた。

「どこも当たったりしてねえ?」

「あ、うん、大丈夫」

広げていた手をそのまま左右に振ってなんともないよと言ってみせた。つーか名字なんでこんなとこいんの、部活入ってたっけ。そう問いかけられて、うん?と首をかしげる。あれ、なんでこの人私の名前知ってるんだろう。ごめん、誰だっけ、隠しても仕方がないので失礼ながら率直にそうきいてみたら野球部さんは目深にかぶった帽子をとってその眉間にしわを寄せた。

「あ、」

「分かりました?」

「はい、分かりました。」

帽子の下からのぞいた顔は同じクラスの阿部で、いつも不機嫌そうな顔がさらに怖くなっている。いや、覚えてなかったとかじゃなくて、帽子で顔見えなかっただけで、そんな風に言い訳を重ねているうちに、そういえばと思い出す。そうだ私はこの阿部隆也に用事があって、部活もないのにこんなところをうろうろしていたんだった。もう一度帽子をかぶりなおして、ボールを握った拳をこつりと私の頭に当てて去っていこうとした阿部に後ろから、あのさあ と声をかける。

「今週!阿部くん週番だから!」

すでに記入し終わった日誌をひらひらと掲げて見せると、阿部は少し低い大きな声でわりぃ!と謝った。明日っからちゃんとやる、そういってまたグラウンドへと戻る阿部の後ろ姿を眺めながら、明日からの一週間に思いを馳せた。







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