1時間眠ってみてきついようだったら今日はもう帰れ、そう優しく言ってくれた星月先生はどうやら仕事が立て込んでいるらしい。珍しく慌ただしい様子で保健室を出ていった。ずきずき、ずきずき、痛む頭に眉をひそめながら布団の中へと潜り込む。ああもう、今日はとことんいやな日だ。

ベッドに横になって目を瞑ってみても、頭の痛みが邪魔をして、安眠なんてできるわけもない。朝よりも強くなった雨は、この世界のすべての音を掻き消していくような気がして、今この瞬間世界にひとりのような気さえしてきてしまう。無理に眠ろうとすると、瞼の裏に浮かぶのはあいつのこと。

笑った顔、怒った顔、それから、――



...



悶々と考えているうちにいつの間にかうとうとしていたらしく、未だ覚醒しない意識の中で、保健室の扉の開く音を聞く。星月先生かえってきたのかな、立てた推測はその人物が出した声で直ぐに間違いだと分かった。

「センセー、腹痛〜…ってなんだ、いないじゃん。」

うそ、なんで。まどろみの中にあった意識は一気に現実に引き戻されて、どうして、という疑問だけが頭の中を駆け巡る。その声の人物、つまり、犬飼は、星月先生がいないのを確認すると、ゆっくりと此方へと近づいてくる。ベッドのカーテンに影が映った時、慌てて目を瞑った。ほんと、なんでここにいるの。授業中でしょ。早く戻りなよ。そんな願いも虚しくカーテンに掛けられた手は、ゆっくりと其れを開いた。

「……寝てんの?」

「……。」

「…体調悪かったんだなあ。気付かないで色々困らせてごめん。俺もいっぱいいっぱいだったんだよ、っつーのは言い訳にはなんないか。」

私が起きてるとも知らずに、ベッド脇にあった椅子に腰かけて、小さな声でつぶやく犬飼。その声がなんだかとてもやさしくて、心臓がきゅうとしめつけられた。

「あーあ、なんつーか、俺、情けねーな…。好きなやつ困らして、そのうえきついこと言って?……でもさあ、気づいちゃった以上、友達って名目のまま隣をキープしといて満足できるほどできたやつじゃねーの。」

ごめん、もう一度そう呟いた犬飼は、私のおでこに張り付いた前髪を払いのけて、そこにそっとキスを落とした。

「……おやすみ、」

そう言い残して犬飼が去って行ったあと、保健室に静寂が訪れる中で自分の心臓の音だけがどきどきと響いていた。










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