じめじめ、じめじめ、ここ最近ずっと降り続いている雨が鬱陶しい。小さな水溜まりに気付かずに、思いっきり足を踏み入れたときなんてもう最悪で、足首やふくらはぎの裏に飛んだ泥を見て一気に気持ちが沈んでいくのだ。

そんな感じで袴の裾を泥で汚しながら、忘れ物を取りに教室へ続く廊下を走る。がらりと教室の後ろの扉を開くとびくりと肩を震わせてこちらを振り向く女子がいた。まさかこの時間に人がいるとは思ってなかったから少しの間だけ固まっていると、教室の中の人影が先に口を開いた。

「なんだ犬飼か…びっくりしたー」

「人をお化けかなんかみたいに。見られちゃまずいことでもしてたわけ」

「いきなり入ってくりゃ誰でも驚くでしょ!日誌かいてただけですー」

教室に残っていたのは俺の隣の席であるこの学校にたった二人しかいない貴重な女子で、そいつはむっとしたような声でそういってまた視線を手元、多分日誌、に目を落とす。そんな苗字を横目に黒板にかかれた週番の文字の下の方を確認すると、そこには確かに男子の少し汚い字で彼女の名前が書いてあった。

「部活?」

「ん、忘れ物とりにきた」

「ふーん、頑張ってね」

「おーよ」

空いた窓からあまり爽やかとはいえない湿った風が吹き込むと、彼女の髪はふわりと靡いて、シャンプーなのかなんなのか、女子特有の甘い香りを漂わせた。じっと苗字を見ているとばちりと目が合って、思わず逸らしてしまった。なんとなく、顔が熱い。自分の机の横にかかってる鞄からお目当てのタオルを取り出せば来た道をそのまま引き返した。教室の扉を閉めるガラガラという音をバックにぽつりと苗字にむかって呟く。

「俺、お前のことすきだわ」


口にしてから、なるほど、俺はこいつがすきなのかと、自分で納得した。俺の言葉から一拍おいて、閉まった扉の向こうから「は!?」とすっとんきょうな声がきこえた。ついでにガタタッという大きな音。自然と溢れる笑いをおさえながら鼻歌まじりに弓道場へと歩を進めた。








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