ピピッという電子音が聞こえてきて、挟んでいた体温計をお母さんに手渡す。あら、と困ったように言ったお母さんは頬に手をあてて「今日は休ませようかしら」と呟いた。見せられた体温計は38度と表示されていて、ただでさえ低体温な私にしては十分すぎるほどの高熱だった。

「学校には電話しといてあげるから、大人しくしときなさいよ」

「うん、そうする…」

家族が家を後にするのを見送って、布団にもぐりこむ。多分昨日雨にあたったうえに考え事をしすぎて長風呂をしてしまったせいだなあなんて考えてため息をついて、襲ってくる睡魔に逆らうことはせずに、ゆっくりと目を閉じた。












「え、苗字さん休み?」

借りていた傘を返そうと彼女の教室を訪れると、その姿はどこにも見えなくて、ちょうど目についた桃にどうしたのかと聞いてみたら、返ってきた答えは「あいつ今日休みっすよ」だった。

「なんか風邪ひいたっぽいっすけど、何か用だったんですか?」

「あ〜前借りた傘返そうと思ったんだけど…そっかあ、もしかしたら昨日の雨のせいかにゃあ…」

言った後に、後悔した。後半は小さく呟いたつもりだったのに桃にはばっちり聞こえてたみたいで、にやにやと笑う桃に嫌な予感を感じて、踵をかえそうとすると、その動きを読まれていたかのように気づいたら桃は俺の前に立ちはだかっていた。こいつ、確実に変なこと考えてる!怪訝な目で見ていると、桃はどうやらクラスメイトらしい女の子を呼んで、何やら耳打ちしている。なんだか見たことのある顔だ。

「あー!こんなところに名前の家までの地図が!」

「えっ!それあれば苗字んちにお見舞いいけんじゃね!?」

「桃城一緒に行く?…って私今日外せない用があるんだった!」

「あ〜そういえば俺も部活あるんだった!残念だな〜」

「でも一人で寂しがってるだろうなああの子…」

なんだかとてもわざとらしい芝居をするふたりは、俺の方をちらりと見る。よくよく女生徒の顔を見てみれば、よく苗字さんと一緒にいる子だったと思いだす。その好奇心に充ち溢れた目を見て、なるほど、と納得した。さっきの嫌な予感はこれだったのか。そうえいば今日は3年はミーティングだけだから早く帰れるんだっけ、と思いだしたときには、その地図は俺の手の中にあった。



08.春は未だ、冬眠中

120526







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