「す、すびばせ…っ」

先輩が差し出してくれたタオルをすでに私の涙がしみこんだハンカチの代わりに受け取る。止まれ!私の涙!そう念じているのに目からはぼろぼろと涙があふれてきて一向に止まる気配がない。きっと呆れられてるだろうなあとおずおずと先輩の方を見ると眉を下げて笑っていた。うう恥ずかしい…。先輩と二人で見た映画はペットと飼い主の絆を描いた感動もので、映画の最中は隣から鼻をすする音がきこえてきたから、多分先輩も泣いていたんだと、思う。でも、さすがにここまで引きずるなんて、引かれてしまったんじゃないだろうか。やっとおさまりだした涙を恨めしく思いながら、もう一度すみませんと謝った。

「謝ることないよん、俺もちょっち泣いちゃったしね」

一緒だ、と笑う菊丸先輩の笑顔につられて私もへらりと笑った。先輩には人を笑顔にする力がある。周りを巻き込んで、あったかい雰囲気を作り出す。そんな先輩が、すごくすごく、好きだ。そんなことを考えてたら、急に緊張してきて、言葉が出なくなった。黙り込んで俯く私に、先輩は心配そうに声をかけてくれる。

「だいじょぶ?どっか具合悪い?」

「あ、いえ!だ、大丈夫で…」

ぶんぶんと両手を振って否定すると、ぽつりと頭に水滴が落ちた。不思議に思って手を当てると、先輩の「あ、」って声と同時に大粒の雨が降り出した。

「苗字さん!走れ!」

差し出された手を掴むのを躊躇していると、先輩は私の手をぱしっと掴んで走り出した。驚いて小さく声を上げる私の方を見ていたずらが成功したみたいに笑う先輩の笑顔が、すごく、眩しい。




「降られちゃったにゃあ」

走って走ってやっと雨宿りできそうなところを見つけた時には、もうふたりともシャワーを浴びたみたいになっていた。大分水のしみこんだスカートをぎゅっとしぼって先輩のほうをちらりと見ると髪の毛から伝う雨がなんだかすごくきらきらしてみえる。水も滴るいい男ってやつだろうか。「雨に縁があるのかもね、俺たち」そう言った先輩の言葉が無性に嬉しかった。俺たち、だって。多分もうすぐ止んでしまうだろうこの通り雨に、もう少しだけ、ほんの少しだけ長く降っていてくださいと秘密のお願いをしてみた。


06.合わない歩幅が心地良い

120330





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