一目惚れ、だったんだろう。その時ははそう自覚はしていなかったけれど、先輩を目で追うようになったのはあのときから、だったから。













迷った、と気付いたのは結構の間うろついた後だった。方向音痴なつもりはなかったし、今まで迷子というものになったことがなかったから、入学したてといっても、まさか、自分の通っている学校で迷うとは思わなかった。さあどうしよう、と、あたりを見回したとき女の子の笑い声が聞こえてきたかと思ったら背中に衝撃を受けて、そのまま前に倒れた。咄嗟についた手は血こそ出ていなかったけれどお風呂に入ったらしみる程度にはすりむけていた。
謝罪の声とともにまた走り去る女の子たちに少しだけ恨めしい視線を投げかけてから、立ち上がってまだ真新しい制服についた砂を払うと靴下に守ってもらえなかった膝小僧が赤く滲んでしまっていた。

「あー…」

じんわりと広がる痛みに眉をしかめながらひょこひょこと歩き出す、もう授業は遅刻でいい。とりあえず保健室に…行きつけるだろうか。
不安になったところで救世主ばりにナイスタイミングで人影が現れた、この際人見知りなんていってられなくて、勢いで声をかける。

「あの!」

「ん?」

「すいません、保健室ってどっち、ですか?」

私の言葉に小さく首を傾げて不思議そうな顔をした先輩(多分)は私の膝を見るとぎょっと驚きを見せた。

「あーりゃりゃ、派手にやっちゃったにゃ〜」

ひょこりとしゃがんで私の膝を覗き込む先輩は、なんというか、かわいらしい人だった。そのまま背中を向けたかと思うと「ん、」って、これは、つまり、

「ほらほら乗って!」

「え、いや、大丈夫です!じ、自分で歩けますから!」

遠慮しなくていいのに、なんて、初対面の人におんぶしてもらうなんて、申し訳なさすぎて遠慮するにきまってますから!そう心の中で叫んでから、改めて保健室の場所を尋ねると、どうやら結構近くにあるらしい。少しだけ安心して、ありがとうございます、と先輩に声をかけてまたひょこひょこ歩き出そうとした、ら、

「ちょーっとまった!」

「はい?」

「また迷っちゃあれでしょ、保健室まで連れてくよん」

もうすぐ本鈴もなりそうだしね、と見せられた腕時計の針はあと数分で次の時間の始まりを指し示すところだった。

「え、と、じゃあ、お願いします。」

先輩の笑顔に押されながら、おずおずと、差し出された手をとった。
ふれたところからじんわりと、あたたかさが広がっていく気がした。




そのあとは先輩に言われるがまま、手当までしてもらって、私のせいで授業に遅刻までさせちゃったのに名前を聞きそびれた。お礼も言えないまま、明日になったらどうにかして探してみようと布団の中で考えたのを覚えてる。
でも、探す必要なんかなかった。ミーハーな友達に引き摺られて行った有名らしいテニス部の練習、そのコートの中に、あの先輩がいた。



02.明日もきっと晴れるでしょう

120122





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