「あーもうやだかっこいい」
「はいはい」
両手を顔で覆いながらはきだした私の言葉は、冷めた目をした友人にさらりと流された。そんなに好きなら告白すればいいのに、そういう友人の視線の先にいるのは笑顔と、そしてくるくる変わる表情の魅力的な、私の、好きな人。先輩がよく遊んでいる校庭の一角がこの教室から見えることを発見したときから、こうやってお昼休みには窓際を陣取って、窓の外を眺めるのが日課になっている。
「無理だよ!知らない人にいきなり告白されても先輩困るじゃん!気持ち悪いだけじゃん!」
「あたって砕けてみりゃいいじゃん」
「砕けたくないよー!」
菊丸先輩はかっこいいし、優しいし、テニス部で、レギュラーで、多分私が思っているよりもっともっとモテてると思うから、知らない人に告白されることもよくあることなんだろう。相手を傷つけずに断る術ももってるんだと、思う。だからそういうのを言い訳にしているのは、ただ私が臆病で、そしてそのいっぱいいるファンの女の子の中の一人になってしまうのが嫌だっていうわがままからだ。
うじうじと悩み続ける私に呆れたのか、小さなため息をついた友人はぱくぱくとお弁当を食べる手を進めながら、でもさ、と言葉を続ける。
「全く知らないわけじゃないんでしょ、」
「そう、なんだけど…」
随分前に、一度だけ、助けてもらったことがある。それこそ私が先輩を好きになった最初の小さなきっかけで、そこからどんどん気持ちは大きくなって今に至る。
ぼーっと眺めていた校庭の人口がまばらになってきたころ、隣からきこえてくるごちそうさまの声に時計を見ると、もうすぐ昼休みが終わる時間だった。
01.息がまともにできません
120120