「い、や、だあー!!」

「そんなこといったって人待たせてるんでしょ?行かなきゃじゃない?」

「だ、だって…」

どうしてよりにもよってつい昨日フラれた人に会いに行かなければいけないのか。行きたくないと駄々をこねる私の腕をひっぱる友達の言葉は間違いなく正論だったけれど、だからって、お待たせしました、なんて笑って呼び出された場所にいけるほど私の神経は図太くできていないのだ。

「むしろすすんで避けてしまいたいくらいなのに…!何で呼び出されたんだろう…」

「私が知るか!ほら行く、よ…」

前を歩く友人が、突然、あ、と呟いてぐいぐいと引っ張っていた手をゆるめたせいで、そのままの勢いで案の定背中に激突した。被害をうけた顔(特に鼻)をさすりながら、文句を言ってやろうと顔をあげると、友達の視線の先、というか、私達の目の前には、菊丸先輩が立っていた。

「ごめん、なかなか来ないから…俺から来ちゃった」

頬をかきながら、眉を下げて笑った菊丸先輩はそう言って友達の後ろに立つ私と完全に視線をあわせる。来ちゃった、なんて、それは女の子の言うセリフですよ。けれど目の前のこの人はそんなセリフが似合ってしまうくらいにかわいくてずるいのだ。どうしたものかと考えをめぐらせていると、今まで体を隠していた背中から突然追い出されて、真っ正面から菊丸先輩と対峙することになる。ちょっと!って私を押し出した友達に抗議の視線をむけると、完全に目線をそらされてしまって、おそるおそる菊丸先輩に向き直る。

「な、何かありましたか?」

「傘をね、」

「あ、え、ああ!」

差し出されたあの日先輩に貸していた馴染みのある傘を見て、納得する。靴箱とかに置いててくれて、よかったのに。ありがとうございますと差し出されたそれを受け取って、どういたしまして、と二人とも妙にかしこまったやり取りをする。

「じゃあ、私はこれで…」

「あのさあ!」

「はい?」

「ちょっと苗字さん借りるよん!」

「…え?」

「はーい、いってらっしゃい」

「え、 え!?」

そそくさとその場から逃げ出そうとしたときに、がしりと掴まれた左手と、菊丸先輩の言葉。それに答えたのはにやにや笑いの友達で、私は事態を把握できないまま、菊丸先輩によってどこかへと引っ張られていく。振り返ったときに見えたのはがんばれ、って口パクで私に伝える友達の顔だった。





15.まほうよ、とけないで

130106





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