「…何かあった?」

挨拶を私の大声にかきけされた桃城くんは、怪訝そうな顔して私達に問いかける。何かあった、なんてもんじゃない。今きいたことが衝撃的すぎて、うまく言葉がでてこない。え、とか。う、とか。そんな意味を持たない言葉、というよりは、ただの音を口から発して、友人の肩をつかむ。彼女は腑におちないような、呆れたような顔をしながら、私に深呼吸を促した。
















「………だって私ずっと寝てたんだよ?」

「そこなんだよねえ」

とりあえず場所を教室に移して詳しいことをきいてみると、つまりこういうことらしい。私に傘を返しに来た菊丸先輩に、悪知恵を働かせて、私にプリントを届けるように促した、と。

「でもプリントは机のうえにあったわけでしょ?」

彼女の言う通り、確かに彼女が届けさせたプリントは私の机の上にあったのだ。それこそ私はこの目の前の友人が先生に頼まれてもってきてくれたのだと、そう思っていたのに。

「だからさ、お兄ちゃんとかが菊丸先輩から受け取ったんじゃないかなあ」

そうであってほしいという願いを込めて、言ったその仮定は、友人にとっても一番腑に落ちる答えだったらしく、彼女はいつもの癖の頬杖をついて、ふーん、と誰が見ても分かるようなつまらなそうな顔でそうこぼした。

「お、噂をすれば」

その言葉に反応をして、彼女の指差すほうを見ると、そこには桃城くんと楽しそうに話す菊丸先輩がいた。ばちり、と噛み合った視線に少しだけ心踊らせて、頬をゆるませないように意識しながら、ぺこりと頭をさげてみた、ら、

「…今、視線逸らしたよね」

完全に噛み合ったと思った視線は、何も返されないままに逸らされてしまった。もしかしたら気付かなかっただけかも、なんて考えも、友人の一言であっさり打ち砕かれてしまって、きっと笑って手を振ってくれるかな、あわよくば名前を呼んでくれたり、なんて、そんな淡い期待を抱いていた分だけ、何かがぐさりと、胸に突き刺さった。




11.どうしてこうも伝わらない

120823






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