「なーいいじゃねえかちょっとくらい」 にたにたと気持ち悪い笑顔で私の進路をふさぐ男をじとりと睨み付ける。こんなへたくそなナンパで女がほいほいついてくと思ってるんならこいつは相当なばかだ。 「ひとりなんだろ?ちょっとお話ししましょーって言ってるだけじゃん」 な?と言いながら肩に手をのせられてぞわりと鳥肌がたった。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!! 「たとえひとりだったとしてもあんたみたいな奴の誘いになんか絶対のらないっつーの!」 そういって男の手を払い除けると、顔をゆがませて、真っ赤になったそいつは私の胸ぐらを掴んだ。ほら、あんたみたいな女の子に手をあげようとする最低野郎なんか一生誰かに好きになんてなってもらえないんだから。握られた拳が迫ってきているのを見てぎゅっと目をつぶる。誰か、! ばき、と痛そうな音がきこえたけど、想像してた痛みは全く襲ってこなくて、というより私は殴られてなんかいなかった。不思議に思ってそろりと目を開けると、視界に入ったのは、尻餅をつきながら頬をさする最低男と、それから、 「ここらへん危ねーからはぐれるなって言っただろ!」 「ロヴィ…」 「ほら、行くぞ!」 ぱっと掴んで引っ張られた手をそのまま払い除けると、今まで眉間に皺を寄せて怒っていたロヴィはかわいい目をまんまるにして驚いたような顔を見せた。だってさ、 「元はと言えばロヴィが女の子にでれでれしてるからいけないんでしょ!私が悪いみたいに言わないでよ!」 「は、はあ!?いつ俺がそんなことしたってんだ!」 「いつもじゃんか!」 ロヴィなんか嫌いだ!喧嘩のときにはいつもつい口に出してしまうそのセリフが、ロヴィのことを傷付けていることは瞬時に変わる悲しそうな顔で理解している。それでも、彼が女の子に優しくするたび、とろけるような甘いセリフを口にするたび、その対象になっている女の子がうっとりと恋したような目をするのがひどく嫌で、ついそのセリフを吐いてしまうのだ。 「あーあ泣かされちゃって、ひどい彼氏じゃねえか」 復活したらしいナンパ男の声はとても耳障りで、なんだか気力を削がれてしまう。さりげなく肩にまわされた手を一瞥すると、その手はすぐにロヴィによって引き剥がされる。 「俺の女に触んな」 低い声でそういったロヴィは、今度こそ有無を言わさず私をその場から引っ張っていく。なんか、すごく怒っている。人通りの多い広い通りに出ても、繋がれた手が離されることはなくて、むしろさっきよりも強い力が痛いくらいで、 「あのさ」 「う、うん…」 「女の人に優しくすんのはなんか、小さい頃らしみついてるっつーか、別にでれでれしてるわけじゃねーし…」 「でも、やだよ」 「うん、でもさ、」 俺が本当に好きなのはお前だけだから、そんな風に言って抱き締められる。今日はなんだかすごくかっこいいロヴィが耳元で囁いた「悪かった」の声は腕の力とは違って弱々しくて、なんだか胸がきゅっとした。 * 130128/リクエストありがとうございました! |