手伝うよ、とのばされた手をやんわりと掴んで断った。たまに家に帰ってきたときくらい、ゆっくりしてほしい。そう言うと梓はありがとうって綺麗に笑って私のおでこにキスをした。 「もーもうすぐできるから座ってて」 「わかった」 久々の名前の手料理だ、とちょっと嬉しそうに言われたらはりきらないわけにはいかなくなって、いつもよりしっかりと味見をした。うん、大丈夫、おいしい。いつもはあまり使わないような来客用になりつつあるお皿を出してきて、丁寧にもりつける。気分はちょっとしたパーティーだ。ふたりだけで少しだけ贅沢をして、おいしいね、って自分の作った料理を食べてくれる人がいて、私はなんて幸せなんだろうと小さく笑みがこぼれる。 「いただきます」 食卓に並んだ料理は我ながらどれもおいしそうで、なんだかわくわくしてくる。ゆっくりと梓の口に運ばれる料理をじっと見つめていたら、何?と少し怪訝そうに聞かれてしまった。 「あ、いや、味はどうかなあって」 「まだ食べてないんだけど」 せっかちだなあっておかしそうに笑う梓の笑顔があまりにもかわいかったから、だから一口食べるまで聞くの待ってたんだよ!とは言わなかった。 「ねぇ」 「ん?」 「僕がいないとき、寂しくない?」 唐突な質問だった。多分私はきょとんとした顔をしてたんだろう、梓は、なんでもない、と今の質問をなかったことにしようとした。そんなの、 「寂しいに決まってるよ」 今度は梓がきょとんとする番だった。私がもう一度寂しいよ、と口にすると梓はふっと笑って今日はやけに素直だね、と言った。 「だって意地はったってしょうがないじゃん」 「ん、えらい」 「ちょっとー子供扱いしないでよー」 「してないけど」 だって名前は僕の奥さんでしょ、なんて梓はいつもさらりと恥ずかしいことを言う。梓は赤くなってるだろう私のほっぺをむに、とつまんで、かわいいなあって呟いた。ほんと、私はいつになったら彼に勝てるんでしょうか。 * 120308/リクエストありがとうございました! |