…ザー……


トレーニングセンターに併設されたシャワールームから、絶えずシャワーの音が聞こえる。
折紙サイクロンことイワン・カレリンは、シャワールームの前で立ち尽くしていた。
彼がシャワールームに入りたいのに入れないでいる理由は、今シャワールームを利用しているバーナビー・ブルックスJr.。
イワンが密かに思いを寄せている相手だ。

シャワールームは1つ1つパーテーションで区切られているし、まず男同士だから入っても問題ないのだが―イワンは、同じ男性でありながら女性に引けを取らない程の美しさと色気を持ったバーナビーに恋をしている。
もし自分がシャワールームに足を踏み入れたとき、バーナビーの裸をモロに視界に入れてしまったらどうしよう。

イワンがそんなことを考えていると、不意に目の前の扉が開かれた。



「…お疲れ様です」


バーナビーはイワンに興味無さそうに視線をやり、無表情で定型文の挨拶を寄越した。
しかし、イワンはそんな無礼も気にならないくらいに動揺していた。

上半身裸のバーナビーが、目の前に居る。
透き通るような白い肌や綺麗に付いたしなやかな筋肉は、イワンにとって目の毒でしかない。
おまけにシャワー後で濡れた金髪、ほんのり桃色に上気した頬がイワンの心臓を擽った。

美しい。美し過ぎる。

イワンが無意識にバーナビーを見つめていると、タオルで髪を拭いていたバーナビーがイワンの方を向いた。
いつもの眼鏡をしていない、冷たい湖底を思わせるエメラルドグリーンの瞳と目が合い、イワンはごくりと唾を飲み込む。


「…何か用ですか」

「えっ!?いや、その……っそういう訳じゃ、」

「なら、あまりじろじろ見ないで貰えますか」


明らかに気分を害したような口調でそう告げられ、イワンは目の前が真っ暗になった気がした。
それはそうだ。同性に裸をじろじろ見られて、いい気がする人間がいる訳が無い。
バーナビーも例外ではない筈だ。


「す…っすみません!!」


イワンはとりあえず謝罪しなければと、何度も何度も頭を下げた。
土下座する勢いで謝るイワンに、バーナビーも困惑する。


「あ…い、いえ、別に怒ってる訳ではないので、そんなに謝らないで下さい」

「い、いやらしい意味で見てたんじゃないんです!信じて下さい!」

「え…ええ、分かってますよ」

「そのっ…僕、バーナビーさんを、ただ綺麗な人だなって…」

「……綺麗?」

「や、ちがっ…あ、違くないんですけどっ、」

「…?どういう意味ですか?」

「僕っ、純粋にバーナビーさんのことが好きで……あ」

「え?」


気付いた時にはもう遅かった。
必死になりすぎたイワンは、自分から墓穴を掘ってしまった。



「…折紙先輩って、僕のことが好きだったんですか?」

「………はい…」

「それって…恋愛としての好き、ですか?」

「………はい…」

「じゃあ、付き合いましょうか」

「………はい…」

「あとで連絡先教えてくださいね」

「………はい………え?」

「先輩がシャワー浴びるの待ってますから。ロビーに居ますね」


いつの間にか普段の格好に着替え終わったバーナビーは、イワンに営業用のスマイルを向けて出て行ってしまった。
一人取り残されたイワンは、放心状態で自分の頬をつねる。


「痛っ……夢、じゃないよな……」


イワンは暫く自分の頬をつねった後、気合を入れるように自分の頬を軽く叩く。
そしてロビーに居るバーナビーを待たせる訳にはいかないと、急いでシャワールームに足を踏み入れた。




end.
初ちゅー編につづく!
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