※空シス、捏造注意
















私が愛した彼女。
真っ白で美しい彼女。
名前も知らない、彼女。



毎日のようにあの公園で会っていた彼女がもう公園に現れなくなってから、もう何か月が経つだろうか。
最後に彼女に会ったあの夜から、私は彼女の姿を見ていない。


もう私との会話に飽きてしまったのだろうか。
引っ越してしまったのだろうか。
まさか、病気になったんじゃ?


そう思っても、私は彼女の住所も知らなければ名前も知らない。
あの日のお礼が言いたくても、それは叶わない。

それでも私は、今日も彼女に会いに行く。
あの日のお礼を言う為に。


「…今日は薔薇にしようかな」


真っ白な彼女には、きっと真っ白な薔薇が似合う。
私は花屋で白い薔薇の花束を購入し、いつもの公園へと向かった。




















「…やっぱり居ないか……」


公園には、やはり彼女の姿は無かった。
いつものように噴水前のベンチに腰掛け、現れるかも分からない彼女を待つ。
青空をゆったりとした速度で流れていく雲や、手を繋いで散歩する老夫婦を見ながら溜息を吐いた。

もう、彼女は二度と現れないのではないか。
今日来なかったらもう諦めた方が―――


「こ…こら!待ちなさい!」


突然、女性の甲高い声と共に、飼い主のリードを離れたらしい犬が飛び掛かってきた。
反射的に立ち上がると、ばさりと地面に薔薇の花束が落ちる。


「ご…ごめんなさい!お怪我はありませんか?」

「は…はい、大丈夫です。………あ……」


目を疑った。


真っ白な肌、シルバーブロンドの髪、赤いカチューシャ。
ずっとずっと会いたくて堪らなかった彼女が、そこに居た。



「……君は………」

「?………ご、ごめんなさい!せっかくの花束が…」

「……あー…」


彼女の白く華奢な腕が、地面に落下してしまった花束を拾い上げる。
崩れてしまった白薔薇を必死に直そうとするその姿は、やっぱり私が愛した彼女そのものだった。


「本当にごめんなさい。花束…大切な人にあげる予定だったんでしょう?」

「い、いえ……あー…いや、そうなんですけど…」

「あの…良かったら弁償させて下さい。こんな素敵な薔薇…崩れてしまっては勿体ないわ」

「い、いや、本当に気にしないで下さい!良かったら、差し上げます!」

「えっ…わ、私にですかっ……?」


戸惑う彼女に、半ば無理矢理花束を押し付ける。
真っ白で華奢な腕で大きな花束を抱える姿を見て、やっぱり彼女には白い薔薇が似合うと思った。


「あの、これ、本当に…」

「いいんです。ずっと貴女に差し上げたかったから…」

「え…?……あ、こらっ!」


尚も私の脚に抱き着いて離れない犬を、彼女が細い腕で引き剥がそうとする。
それをやんわり制止し、犬を抱き上げて彼女に差し出すと、彼女はありがとうございます、と微笑んだ。
初めて見る彼女の笑顔に、胸がときめく。


「ッか…可愛いわんちゃんですね。マルチーズですか?」

「ええ。でもこの子ったらやんちゃで…手に負えなくて」

くすくす笑いながら話す彼女に、胸が高鳴った。
無表情の彼女はどこか人形染みていたが、今日の彼女は表情豊かてとても魅力的だ。
真っ白な頬を少しだけ赤く染めて話す姿は、今まで見たどんな姿より楽しそうだと思った。


「あの…花束、ありがとうございます。帰ったら飾りますね」

「え、ええ……」

「では、また」


ぺこりと礼儀正しくお辞儀をして、去ろうとする彼女。

このまま行かせてしまって良いのだろうか。
引き止めなかったら、もう二度と会えないかもしれない。


「あ………あの!」


考えるよりも先に、言葉が出ていた。



「…はい?」

「…あ、貴女さえ良ければ……また明日、此処で会ってくれませんか?」

「えっ?」

「あっ、いや……もし、嫌でなければ…」

「…ええ。私でよかったら、喜んで」


そう言って、再びふわりと笑いかけてくれた。
ああ、彼女はこんなにも柔らかく笑うんだ。


「じゃ、じゃあ…また…明日」

「ええ、また明日。」


片手に大きな薔薇の花束を持ち、もう一度礼をして去っていく彼女。
白いワンピースの裾が、風にふわりと舞った。


「……また、明日。」


だんだん小さくなっていく彼女の後姿を見送りながら呟いた。
明日こそ、彼女の名前を聞くことが出来るだろうか。




end.

あとがきというか解説。
まず、捏造甚だしくて申し訳ない…!
15話ラストがあまりにも切なくて、どうしてもキースちゃんを幸せにしてあげたくて書きました。
シスのモデルになった子とキースが出会って、幸せになればいいなーと!
キースちゃんの部屋はきっとあげそびれたお花でいっぱい…うわああああああああああ!!!!!



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -