モーニングコール/虎兎
ピピピピピ……
けたたましい携帯電話の着信音で目が覚めた。
布団から腕だけ出してベッドの上を探ると、指先にコツンと当たる無機物の感触。
それを掴んで布団の中で通話ボタンを押す。
耳を当てると、寝起きには少し煩い、けれど愛しい声が聞こえてきた。
『――お、やっと起きたか』
悪かったですね、寝起き悪くて。
『おはよう、バニー』
…おはようございます。
『よく眠れたか?』
……それなりに。
『ちゃんと朝飯食ってこいよ。お前、朝いっつも青白い顔してっから。』
でた、お節介。
『じゃ、切るわ。』
……もう?
『また後でな。二度寝すんなよ?』
……はい。
プツッ、と通話終了を告げる音が聞こえ、携帯電話を閉じる。
携帯電話をベッドの上に適当に放り目を閉じると、再び眠気が襲ってきた。
意識がどんどん薄れてきて、視界もどんどん曖昧になってくる。
あ、堕ちる……そう感じた瞬間、
「やーっぱ寝てたか。二度寝すんなっつったろー?」
受話器越しじゃない、愛しい声が聞こえた。
「おーい、バニー?いい加減起きろっつーの。遅刻すんぞー?」
「……んー…起こして、ください…」
「ったく、しょーがねーなー」
よいしょ、なんておじさんみたいな声が聞こえて(実際おじさんなんだけど。)、僕の腕を自分の首に巻きつけて起こしてくれた。
愛しい体温に離れたくなくてぎゅっと抱き着いてみる。あったかい。
抱き着いたまま至近距離でおじさんの顔を見つめ、そっと目を伏せてみる。
そのまま少しだけ待つと、ふわりと唇に体温を感じた。
閉じていた目を開くと、目の前にはどこか決まりの悪そうな顔をしたおじさん。
それがなんだか可愛くて、思わず笑ってしまった。
「おはようございます、おじさん」
「…おはよ、バニーちゃん」
モーニングコールと、甘いキス。
このふたつがないと、一日が始まらない。
end.