「………あ、そういえば明日パーティーだな」
退屈なデスクワーク中、虎徹はふとカレンダーを見ると、思い出したように声を出した。
その声に、虎徹のビジネスパートナーであり、女性ヒーローとして人気を博しているバーナビーもキーボードを叩く手を止める。
「そうですよ。忘れてたんですか?」
「おーすっかり忘れてた。しっかしなー…俺あーゆー堅苦しいとこ苦手なんだわ」
「…苦手でも、スポンサーに挨拶くらいはしないとヒーローとしてやっていけませんよ」
「わーってるよ!あースーツクリーニング出したっけかな〜」
不真面目な虎徹に、バーナビーははあ、と露骨に溜息を吐く。
そんなバーナビーの態度を気にもせず、虎徹は頬杖をついて彼女に問いた。
「なあ、お前どんなカッコで行くの?」
「…あなたと同じ、スーツで行くつもりですが」
「スーツぅう!?勿体ねーよ!お前せっかく美人なんだからドレスくらい着ろよ!」
「嫌ですよ、ドレスなんて持ってないし。…第一、僕がドレスなんて着ても似合いません」
「いや、ぜってー似合う!えーっと…んー…コレとか!」
虎徹は素早くパソコンを操作すると、画面をバーナビーに見せる。
そこには、繊細なレースやラインストーンがふんだんに使われた淡いピンク色のドレスの画像が。
バーナビーはパソコンの画面を見、虎徹を見、明らかに不機嫌になった様子でバンッとデスクを両手で叩いて立ち上がった。
「え…バ、バニー……?」
「……気分が悪いので早退させて頂きます。お疲れ様でした」
「バ、バニー、ちゃーん…?」
「何かあったらPDAに連絡下さい。お先に失礼します」
バン、と乱暴に閉められる扉。
取り残された虎徹はひとり、呆然としながら頬を掻いた。
「…えーと…俺、なんかやっちまった……?」
パーティー当日。
会場には大勢のお偉方や、HERO TV関係者、そしてヒーローで賑わっていた。
結局バーナビーの機嫌を直せないままパーティー当日を迎えてしまった虎徹は、広い会場で相棒の姿を探していた。
しかし、いくら探しても見つからない。
少し焦りを感じながら会場内をうろうろしていると、煌びやかな青いドレスを身に纏ったブルーローズに声を掛けられた。
「ねえ、何キョロキョロしてんの?」
「ブルーローズ…いつにも増して派手だな〜」
「ほっといて。…バーナビーは一緒じゃないの?」
「あ〜…それが…アイツ来ねーかも…昨日ちょっと怒らせちまってさ…」
「はぁあ!?アンタ達ってさあ……ホンット……あ」
「あ?」
何かに気付いたらしいブルーローズの視線を追って後ろを振り向くと、そこにはどんなに探しても見つからなかった相棒の姿があった。
しかし、今虎徹の目の前にいるのは、虎徹の知っているバーナビーではなかった。
白い上品なレースがふんだんにあしらわれた、淡いピンクのドレスを身に纏うバーナビー。
いつも外巻きに跳ねている金髪をハーフアップにし、華奢な髪飾りで留めている。
普段化粧に無頓着な為、ほとんどすっぴん(それでも十分美人なのだが)で過ごしているが、今日は派手すぎないメイクが施されている。
あまりの美しさに、虎徹は声を失う。
大胆に裂けたスリットから白く長い脚を晒しながらこちらまで歩いてきたバーナビーは、なぜか浮かない顔だ。
彼女のあまりの美しさに声が出ない虎徹の代わりに、ブルーローズが声を掛けた。
「バーナビー!すっごく綺麗よ!似合ってるわ!」
「……どうも」
「相棒が見つかって良かったわね。じゃ、あたし行くから」
未だに固まっている虎徹の背中を軽く叩き、ドレスの裾を翻しながらブルーローズは行ってしまった。
無言のまま見つめ合う虎徹とバーナビー。
先に沈黙に堪えられなくなったのはバーナビーのようで、消え入りそうな声で告げた。
「………帰ります」
そう言って、くるりと虎徹に背を向けてしまう。
虎徹は、バーナビーの露わになった白い背中に一瞬目を奪われるが、慌てて彼女を引きとめた。
「わーっ!待て!待てって!」
「……離して下さい」
「っ…こっち向けよ!」
剥き出しの肩を掴んで無理矢理こちらを向かせると、バーナビーは今にも泣き出しそうな顔をしていてぎょっとした。
「……悪い。綺麗すぎて声も出なかった。…めちゃくちゃ似合ってるよ」
「…ぉ、お世辞は結構です」
「お世辞なんかじゃねーよ!…その…ほんとに似合ってるから。俺の為にそれ、着てくれたんだろ?」
「…………っ」
バーナビーはチークでピンク色に染められた頬を更に紅潮させ、恥ずかしそうにこくりと頷いた。
その、いつもの高飛車な態度とは全く違う愛らしい仕草に、虎徹は胸が甘く締めつけられる感覚に襲われる。
「なんか……お前ってさ」
「…はい?」
「いつも美人だとは思ってたけど…こんなに可愛かったんだな」
「!!ば、バッカじゃないですか!?よくそんな恥ずかしいこと言えますね!」
「うるせーよ!素直に喜んどけ!」
いつもと変わらないやりとりに、思わずバーナビーは噴き出してしまった。
虎徹もそれにつられて笑う。
一頻りふたりで笑い合うと、虎徹は腕をくの字に曲げ、バーナビーを軽く小突いた。
「ん、バニーちゃん」
「…なんですか?」
「素敵なレディをエスコートするのは、紳士として当然だろ?」
「…しょうがないですね」
憎まれ口を叩きながらも、バーナビーは虎徹の腕に自分のそれを絡めた。
「んだよ、可愛くねーなー」
「可愛くなくて結構です」
「嘘嘘!お前めちゃくちゃかわいーよ」
「っ……スポンサーに挨拶するんでしょう!さっさと行きますよ」
「はいよーっと」
仲直りしたばかりのふたりのヒーローは、ベルベットのカーペットの上を歩き出した。
しっかりと腕を組んだまま。
パステルピンク
「よし、まずソフバン行くか」
「バンダイが先です!」
end.