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 ひたむきな君と

「ただいま。」
そう言って部屋に入って来た彼女は、やけにやつれた顔をしていた。いつもふわりと微笑んでいる目元には隈が色濃く残る。発表があるからと、ここ数日は遅くまでパソコンと格闘していたようだ。

「ああ。」

読んでいた本からちらりと顔をあげ、それだけを呟くと、目線を本に戻す。そっと近づく彼女の気配を感じ、ページを読み進めていると、背中に温もりを感じた。

発表が終わると、彼女はいつも俺の背中にもたれ、何をするでもなく、しばらくの間物思いにふける。それが終わればいつもの彼女に戻っているのだが、色々な思いが彼女の中に渦巻いているのだろう。
毎回、この時間は、本を読むふりをしながら彼女のことを考える。が、かける言葉も何も思いつかない。何かあれば素直に言う人だ。彼女にとっても、それが正解なのだろう。だが、今日だけは。

背中の温もりが離れていくのを感じた。すっかり元通りになり、風呂に行こうとする彼女を呼び止める。

「雪花、少しいいか?」
「うん。何?」

やつれは残るものの、いつものように優しく細められた目を見つめ、口を開く。

「前々から考えていた事を言わせてくれ。まとまっていないし、門外漢の言うことだ、聞き流してくれて構わない。」

そこまで言うと、俺の正面に腰を下ろした。

「お前がそこまで猛省するのだ。確かに、反省すべき点はあったのだろう。だが、慢心せず、そのように反省できるのは、お前の、物事に対する謙虚な姿勢の表れだと思う。そうやって自身でのびしろを見つけられるのは、お前の美点だ。誇っていい。」

口下手な自分がもどかしい。いつも見守っている。よく頑張った、と伝えたいのに口が回らない。伝われ、そう思いながら。苦しんでいる時、いつも彼女がしてくれているように、瞳に思いを乗せて。

「このタイミングで何でそんなこと言っちゃうかなー。」

ポロリと零れる涙に、困ったようにしかめられた眉。不快だったのかと焦るも、震える声でありがとう。と呟いたのが聞こえ、そうではないと悟る。

「実は、週末もオフになった。もし予定がなければ一緒にどうだ?」

彼女が見たいと話していた映画のチケットを差し出すと、雪花は花が咲いたように笑った。心の中で、アドバイスをくれた不二に礼を言ったのは、言うまでもない。



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