比嘉 | ナノ

百合の花の咲く頃に


※自殺を仄めかす表現があります。大丈夫な方のみどうぞ。










「私さぁ、死ぬ時は、部屋いっぱいに百合の花…テッポウユリを敷き詰めて、その中で眠るように死にたいんだよね。」

私がポツリと呟いた言葉は、扇風機の回る音だけの静かな部屋には、やけに大きく響いた。

隣で雑誌を読んでいた永四郎は、豆鉄砲をくらった鳩のように、ポカンとした顔でこちらを見つめる。

「…ふふ、あはははは!永四郎、なんて顔してんの!今の顔めっちゃ間抜け!」

腹を抱えてヒィヒィ言いながら笑っていると、やけに真面目な顔をした永四郎が、口を開く。
流石に怒られるかと思いきや、

「何でです?」

と聞いてきた。

これが友達だったら、えー、何それ。白雪姫かよ、超ウケる!って笑って終わりだっただろう。お気楽で適当、それが皆から見た私だから。でも、表に出さないだけで私にだって悩みくらいあるし、死にたいって思うことだってある。
だから、そんな時は"今私が死んだら周りはどう反応するのか"を考えて溜飲を下げるのだ。
そんな時に考えたことをぽつりと呟けば、真面目に返されてしまい、虚をつかれた私も、普段より少し真面目に返す。

「それが1番楽で綺麗に死ねる方法なんだってー。まあ、ネットで見ただけだから、ホントかどうか分かんないけど。最期くらい綺麗に終わりたいじゃん。それにさ、テッポウユリって何だか永四郎みたいだし。」
「あなたねぇ…。急に驚かさないでくださいよ。テッポウユリが、俺に、ですか?」
「うん。野生でも強かに、凛と咲き誇るところとか、一所に留まらないところとか。」
「何、俺が飽き性とでも?」
「違うよー。永四郎はすーぐそうやって悪い方に疑うんだから。一所に留まらないってことは、前に進んでるともとれるでしょ?永四郎のそういう所、凄いと思ってる。」
「何です、急に褒めて。明日死ぬみたいじゃないですか。」

読んでいた雑誌を完全に閉じ、こちらへ体を向ける永四郎は、瞳の奥に不安が揺れている。
彼のこういう、私の茶化した言葉から真意を汲み取る能力って凄い、といつも感心させられる。

「大丈夫、死んだりしない…っ」
よ、と続けようとしたら、永四郎に抱きしめられた。私の存在を確かめるようにきつくきつく力を入れられ、骨がみしりと軋む。

「勝手に俺の前から居なくなるなんて許しませんよ、絶対に。」

括弧書きで呟いた"今は"という言葉さえも、永四郎には聞こえていたのではないかと思う。消え入りそうな声が耳元に落ちた。

永四郎は、こんな面倒臭い女のどこが良いんだろう。私には勿体ない、凄くできた人なのに。どんな女性でも、選び放題だろう。
でも、それでも。永四郎はこんな私が良いと言ってくれたのだ。それだけで私は幸せ者だと思う。
永四郎に締め付けられる息苦しさなんか忘れて、そっと彼の背中に腕を伸ばす。

「ありがとう。大丈夫、私は居なくならないよ。永四郎、逃がしてくれそうにないし。」
「当たり前でしょう。俺はしつこいんです。」

そう言って私の瞼にキスをする永四郎は、すっかりいつもの余裕を取り戻していた。ふりしきるキスの雨。擽ったさに耐えていると、止めとばかりに首筋に強く吸い付き、痕を残す。


「…部屋いっぱいの、とはいきませんが。明日、テッポウユリ見に行きますか。」
「うん、行く!」

ひとしきり戯れてそんな話をするころには、私の鬱屈とした気持ちも晴れていた。雲間からさす月光がベランダを照らしている。この分なら明日は絶好のピクニック日和になりそうだ。



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