新垣くんと彼女
放課後、日直だった私は、日誌を提出しようと職員室へ向かって渡り廊下を歩いていた。何とはなしにふと頭を上げると、向こう側からラケットバックを担いだ、小柄な男の子が駆けてくるのが見える。部室棟に向かっているのだろう。背の大きさからして2年生だろうか?なんて考え事をしながらすれ違った。
その時、視界の端で何か白い物が揺れた気がして周りを見回すと、床に可愛らしいうさぎのキーホルダーが落ちていた。
「ねえ。これ落ちてたんだけど、貴方の?」
「あっ!わんのです!ありがとうございます。お気に入りの子なので、拾ってくれて助かりました。」
そう言ってニコニコ笑う顔が眩しい。なんて可愛いんだろう。こんな子が弟だったらついつい甘やかしてしまいそうだ。
「いえいえ。気づいてよかった。テニス部なの?」
「はい!2年の…「おい、新垣!」ともくん。」
「永四郎が呼んでるぞ…って時任?2人知り合いだったのか?」
ともくんと呼ばれたその人は不知火くんだった。私の事にも気付いたようで、不思議そうな視線を投げかけてくる。
「ううん。私が落し物拾っただけ。2人こそ仲良さそうだね。」
「ああ、こいつとダブルス組んでるんだ。な。」
「あ、はい。2年の新垣浩一です。」
「じゃあ2年生でレギュラーなんだ!凄いね。よろしく、新垣くん。私は3年の時任紫苑です。」
「よろしくお願いします。」
「あ、ごめん。引き留めちゃったね。部活大丈夫?」
私のその言葉で当初の目的を思い出したのか、2人は急に焦りだした。
「はっさ!行くぞ、新垣。」
「うん。時任先輩、ありがとうございました!」
「いえいえ。」
「じゃ、またな。」
「うん。二人とも部活頑張って。」
風のように去っていく2人を見送ってから、職員室へと向かった。
後日、不知火くんに呼び出されて中庭に行くと、先日のお礼にとうさぎ型の手作りクッキーを携えた天使改め新垣くんが待っていた。はにかみながらクッキーを差し出す新垣くんに、だらしなく緩みそうになる顔を必死に取り繕いながらお礼を言ったのは言うまでもない。
それからは、廊下ですれ違えばお互い挨拶をするようになった。
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