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来月の委員会の打ち合わせなどを済ませ、2人で教室に戻っていると、おもむろに木手くんが口を開いた。

「そう言えば、以前君が気になると言っていた舞台のチケットが手に入りましてね。今週の日曜日なのですが、一緒にいかがです?」

舞台鑑賞という共通の趣味がある私たちは、たまに一緒に舞台を見に行くことがある。なので、殊更驚くことでは無いのだが、その舞台は有名な演出家が携わっており、既に殆どのチケットが売り切れていた。

「え、本当?殆どの公演売り切れなのに…。」
「父の会社が衣装を提供している関係で優待券をもらいましてね。」
「そんな、御家族はいいの?」

木手くんの家は皆お芝居が好きだったはずだ。

「父と母は既に見に行ったようです。妹は元々興味がないので。1人で行くのもつまらないし、貴女さえ良ければ。」

そう言われてしまえば、断る理由もない。有難く木手くんの厚意に甘えることにした。

「嬉しい!ご一緒させて下さい。」
「では決まりですね。また連絡します。」
「うん。ありがとう。」

そんなことを話しているうちに教室の前まで来ていた。

「じゃあ、部活頑張ってね。また明日。」
「ええ。あなたも帰り気をつけて。」

そう言って1組の教室の前で別れ、私も自分のクラスへ戻った。

「はぁー。」

フラフラと自分の席へ引き寄せられるように座り込むと、机に突っ伏しながら大きく息を吐いた。
緊張した。まさか、木手くんに観劇に誘われるなんて。いや、たまに誘われることはあるから、それ自体は別にいい。
しかし、今回の舞台は完全に諦めていたため、心の準備が出来ていなかった。
変な反応をしなかっただろうか。
――この気持ちを、彼に悟られてはいないだろうか。

私が木手くんに好意を抱いたのがいつだったのか、今となっては明確には思い出せない。
1年の時に委員会で一緒になって以来、1度も同じクラスにはなったことがないのに、なんだかんだで週の半分は顔を合わせるようになっていた。

彼の第一印象は自分にも他人にも厳しい人だった。他人に高いレベルを求めるし、彼はなかなかに皮肉屋だったから。でも、人に求める分木手くん自身も努力しているのを見て、尊敬の念を抱くようになり、いつしかそれは好意へとすり変わった。

木手くんと付き合いたいとは思わないと言えば嘘になるが、この関係が心地いい。今の私には、この関係を壊してまでどうにかしようとは思えない。

グラウンドに目をやると、テニス部が茜色に染まりながら練習に励んでいた。

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