最初、ローからスカウトされたときは単純に嬉かった。
死の外科医として異名を轟かせるローの船は少数精鋭でクルーはすべからく医療の心得を持っていることは海賊や海軍でなくとも知れ渡っていたから私は自分の腕が評価されたのだと歓喜し、選ばれたのだと感じた。
だから、差し伸べられたローの手を躊躇なく掴んだ。

それからの日々は苦あり楽あり涙ありのドタバタサバイバル。はじめて出た島の外は私の常識が一切通用しなかった。
渦巻く海流に規格外の海王類、薬草が山のように採れた島もあれば毒虫だらけの島に上陸したこともあった。ローの首にかかった懸賞金を目当てに押し寄せる賞金稼ぎや同業者の海賊、正義を掲げる海軍に昼夜関係なく追われた。まぁ、こちらはそのたびに潜水艦でさよならするのだけれども。

ハートの海賊団の一員となって早数ヵ月。ようやく船にも海にも慣れてきたときのこと。私はローからよく見られていることに気が付いた。
なぜだろうと観察していると次第に意識せずともローの姿を追っていて、自分でも気付かないうちにローを好きになっていた。まったくおかしな話だ。

自覚した私はその日のうちに想いを告げた。私が「好きです。付き合ってください」と言ったときのローは驚きとわずかな戸惑いを見せて、でも、静寂な空間でローは確かに「分かった」と答えてくれた。

ローとともに夜を過ごすようになって、私は知ってしまった。
情事の最中も、普段の遠くから私を見ているときも、ローの眼差しは私じゃなくて私を通した向こう側にいる誰かを見ていた。
その相手が女なのか男なのか、子どもなのか大人なのか年寄りなのかさえ分からない。
姿も名前も知らない誰かに私は嫉妬を覚えて、悲しくなった。けれど、そう感じたのに別れるという発想はまったく思い付かなかった。むしろ、ローが自分といることを許してくれる限り居続けようと思った。

だって私はローを愛しているから。

私はローと付き合うようになって自分の愛の重さに気が付いた。今までに何人かと付き合ったことはあったけれど、こんな気持ちになるのははじめてだった。だって、別れ話を切り出されたら目の前で首をナイフで掻っ切って死ぬなんて考え、一度も思い付いたことはなかった。
もちろんローとは死ぬまでずっと一緒にいたい。
けれど時々、首から真っ赤な血飛沫を流した私をローはどんな目でどんな表情で見てくれるだろう、と想像してしまう。
悲しんでくれるかな?
怒ってくれるかな?
それとも喜ぶ?

ローは関心のないものにはとことん興味がないけれど裏を返せば関心さえ引くことができたらどんな相手だろうとローは見てくれる。そして私はローの関心を引くことができる容姿をもっている。それはローが忘れたくない誰かの面影。普段のローの態度からしてその誰かがすでに死んでいる可能性が高いと踏んでいる。ならローの前で二度目の死を演出することができたのなら、ローはその瞬間を一生忘れることができないはずだ。
ローの記憶のなかで私はずっと生き続けることができる。
そう考えただけでゾクゾクした。
あぁ、なんて素晴らしいことだろう。

ガチャリ。
私を現実に引き戻したドアノブの音が響き、扉が開けられる。
部屋に入ってきたのはロー。


「、レナ」


どんなときでもローが私を呼ぶとき、必ず一瞬の空白が生まれる。まるで違う名前を呼びそうになって寸前で気付いたような、そんな空白。
そのたびにやさしい私はそれに気付かないフリをして愛しいローの名前を呼ぶのだ。

「なあに、ロー」


いつの日か来るかもしれないその日を夢見て、レナはうっそりと微笑んだ。


これからもそれからもずっと一緒
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