水平線の向こうから太陽が顔を出して夜明けを告げた。
丸いガラス窓から射し込むその光に照らされてレナはゆっくりと瞼を持ち上げた。途端、視界に赤が飛び込む。炎のような鮮やかな赤ではなく血を連想させるような深い赤。薄暗いこの寝室で見ればその赤は一層血の色に似ていた。レナはしばらくの間その赤を眺めていたが、自分に与えられている仕事を思い出して実行した。


「シャンクス、朝だよ。起きて」


毛布から出ているたくましい肩をトントンと軽く叩く。揺さぶられるのは好きじゃないらしい。


「ん……んー、レナ」
「おはようシャンクス」


うっすらと目を開けたシャンクスの顔を覗き込む。シャンクスの目はしっかりとレナを映した。


「おはようレナ」


シャンクスの右手がレナの項に添えられて、触れるだけのフレンチ・キスを一回。もはや日課となったやさしいキスはレナがここに来た次の日の朝から続けられている。
キスをしたシャンクスはそれからベットの上で全身を伸ばして起き上がった。何も纏っていないその身体は四皇の名に相応しいほどの見事な肉体美で筋肉の名称すら知らないレナから見てもきれいだと思った。薄くなく厚すぎず、形のよい筋肉があるべき場所に収まっている、そんな手本のような身体は少しヨレたシャツに隠されてしまった。

その様子をレナはただただベットの上から眺めていた。

身支度が終わったシャンクスは腕の通っていない袖をレナの前に差し出した。レナは何も言わずその揺れるシャツを結んだ。レナができたと離せば、シャンクスは存在しない左手を隠すように黒いマントを羽織った。


「それじゃあ、またあとで」
「うん」


レナを抱き締めて、シャンクスは耳元でそっと囁いた。


「今日も愛してる」
「うん。私も、愛してる」


レナの言葉にシャンクスは深く笑った。

シャンクスが出ていけば扉の向こうから施錠の音が聞こえた。その音を聞いてレナはようやくベットから腰を上げた。白い肌にはいくつもの赤い華が咲いていた。広いベットを下りれば鎖がジャラリと鈍い音を立てる。レナは床に投げ捨てられている白いワンピースを手に取って、下着も身に付けないまま、白いワンピースに頭を腕を通した。

レナがこの部屋に閉じ込められてからもう一ヶ月が経った。最初こそ抵抗していたレナだったが毎晩情事の際に耳元でつらつらと囁かれる呪いのような愛の言葉に精神がすり減っていった。これ以上心が壊れてはいけないと脳は『自分はシャンクスの恋人である』とレナを騙した。

ジャラッと鎖のたわみがなくなった。足枷のせいでレナはその場から前には一歩も進めない。半径3mの空間がレナの許された活動領域だった。



一ヶ月前に立ち寄った平穏な島でシャンクスはレナと出会った。レナを一目で気に入ったシャンクスはそれからログが貯まる五日間、毎日のようにレナの働く花屋に通った。
船員も町の住民もその様子を微笑ましく見守っていた。
それでもレナはシャンクスの言葉にイエスと答えなかった。
ならばしょうがないとシャンクスはログの貯まったその日になんの躊躇いもなくレナを拐って出航した。島がどんどん遠ざかっていくのをレナはシャンクスの腕のなかでただ呆然と眺めていた。あまりの出来事に暴れる気さえ起きないレナにシャンクスは告げた。


「レナ、これからはずっと一緒だ」


ほしいものを手に入れた子どものような無邪気な笑顔でシャンクスはレナを抱き締めた。
空は憎たらしいほどの快晴だった。


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