シャーロット家に養子として受け入れられた私はここに来て今日でちょうど五年が過ぎた。
シャーロット家はとにかく兄弟が多い。おまけにどんどん増えていく。この五年の間だけでも何人生まれたか曖昧で正直覚えていない。だから小さい兄弟の名前をよく間違えてしまって拗ねられてしまうこともあった。それでも一日必ず一回は顔を揃えるメリエンダがあるからこの程度で済んでいると思っている。
そしてここに来て私はお菓子が大好きになった。きっとこれもメリエンダの影響だ。私にとってメリエンダは一日で一番楽しみな時間になっている。
でも、メリエンダのたびにママと会うのは五年経った今でも怖い。
きっとママは興味がなくなったら、気に入らなくなったら何の未練もなくあっさりと私を捨てるんだろう。
そんな思いが違和感なく私の心に居座っていた。だというのに私はママを喜ばせようとお菓子作りに精を出すわけでもなかった。ただ、その思いを自覚したときからママとの接触をなるべく控えただけだった。


「考えれば考えるほど私ってママの子でいいのか不安になる」
「またそんなことで悩んでるのかよ」
「カタクリ……今から訓練?」
「あぁ。来んなよ」
「やだ。私もついていく」
「なら離れたとこに座ってろよ」
「そのくらい分かってるよ。心配性だなぁカタクリは」
「うるせェ」
「はいはい」


そんなカタクリが持っているのは背丈と同じくらいの三又槍。ちなみに本当に切れる。私が指を添えるだけでその指から血が流れるほどに鋭く研がれている。
以前に興味本位でそんなことをしたときはカタクリの怒りが凄まじかった。あまりに怒ってたからカタクリがなんて説教してたのか記憶にないくらい、とにかく凄まじかった。
でも、私にそんな説教をするカタクリはよく街でケンカをしている。なんでもその口を馬鹿にされたから、らしい。
私がいうのもなんだがカタクリは強い。ケンカでは負けなしの強さで最近ではもっとずっと年上ともケンカをしてるって噂だ。


「カタクリが自分のケンカで怪我をするのは勝手だけど相手の怒りの矛先をこっちに向けないよう気を付けてね。私、ケンカできないし」
「いきなり何言ってんだよ。全員ぶっ飛ばせば問題ねェ」
「大有りだって。もう」


そのときふと視界に入ったカタクリの右足に違和感をもった。


「ねぇカタクリ」
「なんだ」
「今日も街に行ったの?」
「あぁ。それがどうしたんだよ」
「……右足」


そう言えばカタクリはギクリと面白いほど反応を見せてくれた。訓練が始まる前に気づけてよかった。言い訳を探しているカタクリの服の裾を掴んで、向こうに見える訓練場に大声で叫んだ。


「ダイフクー!!オーブンー!!」


すると直ぐに返事がきた。この声はオーブンだ。


「どーしたー!!」
「カタクリがケンカで右足捻挫してるから!!今日の訓練休ませるー!!ペロス兄さんに伝えててー!!」
「りょーかいー!!」


訓練場からオーブンが出て来てこっちに向かって手を振ってくれた。私もオーブンに手を振って方向転換。カタクリも私に服を引っ張られながら来た道を戻っていく。


「なんでいつもレナにバレるんだ……ここに来るまで誰も気づいてなかったのに」
「カタクリ、そろそろケンカが理由で訓練休んでたらペロス兄さんからありがたい説教聞かされるよ」
「分かってる」

「カタクリ」
「なんだよ」

「私、カタクリの牙好きだよ」
「……知ってる」
「知ってるならよかった」
「レナ」
「ん?」
「…………ありがとう」
「へへ、どういたしまして」


私が掴んでいた服の裾はいつの間にかカタクリの手になって、ギュッと私の手を握っている。
カタクリは強い。きっとこれからもどんどんどんどん強くなってママに助けられることも減って、ペロス兄さんみたいに守る立場になるんだろう。
だけど人並みに繊細なカタクリはそのくせ自分の本心を隠したがる。隠して隠して、それがいつか首枷になってもそれを良しとして無理をする。そんな未来が容易に想像できる。


「……そうだ!」
「どうした」


カタクリは無理をする。私はそんなカタクリの無理を見破れる。それこそ私にしかできない、私だけの役目だ。


「そうだよ、なんで気づかなかったんだろう」
「おい。おれの声聞いてるか」
「カタクリ」
「……なんだよ」
「私はカタクリを一人になんかさせないから、カタクリは私が支えるから、だからよろしく」
「……どうしたんだよレナ」
「そういう気分」
「変なの」


我ながら中々の役目を見つけたと思う。
私は上機嫌でカタクリと一緒に道を進む。なんだかんだ言いながら手は繋がったまま。それが答えってことでいいよね?


不器用な君なりの答え方
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