同い年だからか、それともこの牙が気に入ったのか。新しく家族になったレナはおれによくなついてくれた。どこに行くにしてもおれのあとをちょこちょことついてくる様子にペロス兄が「合鴨の親子のようだな」と笑っていた。

今日はおれとダイフクとオーブンとでかくれんぼをして遊ぶことになっていた。おれについてきたレナも一緒にかくれんぼがしたいと言ったので四人ですることになった。


「「「「じゃんけんぽん!」」」」


おれの一人負けだった。


「かくれんぼの範囲は今いるホールケーキ城のこの階だけ。おれが六十を数えている間におまえらは隠れる。そして、もしおれがメリエンダまでに見つけられなかったらおれの負け。それでいいな」


おれの言ったルールに不満が上がることはなかった。おれは近くの柱に向き合ってさっそく数え始めた。バタバタとあいつらの走る音が廊下の向こうに消えていく。だが、レナの足音はあいつらの足音にかき消されて聞こえなかった。これでレナがどこに向かっていったのか分からない。思ったより探すのに時間がかかるかもしれない、と思いながら六十を数え切った。とりあえずダイフクたちから探し始めようと後ろを振り返れば正面にレナがいた。


「ッ?!」


どうにか声を抑えることができたが本気で驚いた。足音が聞こえなかった理由は単純にその場から動いてなかったからだということが分かった。
予想だにしないレナの行動におれが固まって動けないでいると、レナがおれの手を取って腕を引っ張る。


「ダイフクとオーブンは向こうに走っていったよ」
「……そうか」


どうやらレナはおれと一緒に鬼役をしたいらしい。
おれはレナとギュッと手を繋いだ。
繋がった手のひらからレナの体温がじわりじわりとおれを侵食していく。たったそれだけのことで心は満たされた。


「レナの手は魔法の手だな」
「魔法の手?」
「あぁ。レナと手を繋ぐと、楽しくて、嬉しくて、優しい気持ちになる」
「ほんとに?」
「嘘は言わねェよ」
「へへ、ならいっぱい手を繋いであげる!」


レナはそう言うと繋いだ手をブンブンと振り回す。
照れて少しはにかむレナは可愛かった。




「いないね」
「ここだと思ったんだけどな」

いつもオーブンが高確率で隠れている西の客室をレナと手分けをしながら探したがオーブンは見つからなかった。誰もいなかった部屋をあとにして長く続く廊下を二人で手を繋ぎながら歩く。

ホールケーキ城に来てからまだ一週間しか経っていないレナは部屋があるたびに「あれは誰の部屋?何のための部屋?」と聞いてくる。そのたびにおれは自分が知っている部屋なら教え、知らない部屋は扉を開けて一緒に部屋のなかを確かめた。

そうこうしているうちにホールケーキ城のなかに甘い匂いが漂ってきて、ホーミーズたちがメリエンダだと騒ぎ始めた。


「カタクリの負けだな」
「残念だったなカタクリ」


勝ち誇った顔でダイフクとオーブンが姿を現した。


「ダイフクもオーブンもどこに隠れてたんだよ」
「おれは階段裏の倉庫部屋」
「おれは西の客室」
「は? そこは探したぞ」


本当にその部屋にいたのかとおれが二人に詰め寄ろうとした瞬間


「実は私が探してた場所に二人とも隠れての」
「は?」
「そうそう。それでおれたちはレナに居なかったことにしてほしいってジェスチャーで頼んだ」
「おまえはレナの言葉を信じてレナが探したところは探さなかった。だから時間内におれたちを見つけられなかった」
「というわけです」


レナがそう締めくくり、二人の間に入ってピースサインをおれに向ける。わけがわからず何も話せないおれの前で三人はいたずらが成功したようにハイタッチやハグをして喜んでいた。

面白くない。
負けたことも、レナが二人と協力していたことも、すぐ近くに隠れていたのに気配に気づかなかったことも、おれを仲間外れにして三人で喜んでいることも。何もかもが面白くなかった。


「おまえらなんか知るか」


これ以上何も言いたくなかったおれは三人を置いて、一人で食堂に向かった。後ろからは「拗ねることねェだろカタクリ」「謝らなくていいの?」「いいのいいの。放っておけばそのうち直る」と聞こえてくる。レナは結局食堂の席に座るまでダイフクとオーブンと一緒に話していた。

メリエンダは親子全員が揃うまで始まらない。今日、食堂に来てないのはママだけだった。そのママの到着を待つ間、おれの隣の席に座ったレナがおれを気にして色々と話しかけてくるがおれは全部聞こえないフリをした。

ようやくママが到着し、メリエンダが始まった。
今日のおやつはアップルパイだった。


「カタクリ。機嫌直してよ」
「…………」
「ちょっと驚かせたかっただけなんだって」
「…………」
「ごめんねカタクリ。おやつ半分あげるから」
「え」


レナの信じられない言葉におれは思わず反応してしまった。


「あ、やっとこっち向いてくれた。本当にママの子は甘いの好きだね」
「……本気か?」
「ん? 何が?」
「本気でメリエンダのお菓子を半分もあげるって言っていんのか?」
「それでカタクリの機嫌が戻るならね」
「……レナはすごいな」
「何それ。おやつを半分あげるだけだよ。変なの」


ママの子として生まれてから今までメリエンダのお菓子を誰かに半分も譲る兄弟は一人もいなかった。いつも優しいペロス兄だって自分のお菓子を取られそうになれば弟だろうと容赦なし、やっと三歳になったばかりのクラッカーだって誰かからおやつを取られそうになると力の限り泣いて叫んで暴れまわる。おれもそんなことをされそうになれば相手が兄だろうが弟だろうが徹底的に抵抗する。
変だと言いたいのはむしろこっちだ。けれど、メリエンダのお菓子をもらえるのならとその言葉を飲み込んだ。


「大事に食べる」
「うん。味わって食べてね」


おれが食べたアップルパイと同じもののはずなのに、レナからもらったアップルパイは今まで食べたなかで一番美味しかった。


未知の味のアクセントは「 」
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -