与えられるなにもかもが、こんなにも大切で、いとおしいと感じる相手に、最初から勝てるわけがなかった。




「ほれ」

「ありがとうございます」

「銀さん特製の年越しそばだから、よく味わって食えよー」

「隠し味にいちご牛乳でも入れてんですかィ?」

「ばぁーか」


暇なら年越しそばでも食わしてやるから来い、という恋人の連絡に嬉々として頷き、万事屋に到着したのがつい先ほど。

(夜間巡回の当番は当然ぶった切ってきた、都合よく近くにいた山崎に押しつけたので大丈夫だろう、たぶん)

まるで待ち構えていたかのようにすぐさま差し出された湯気立つ丼を包み込むことでまだ少し冷たい指先を温めながら、そんな会話を交わす。


「はい、沖田くん」

「あ、どうも」


続いて差し出された箸を受け取りながら、ふと気付いたことを口にしてみる。


「旦那、これ新しく買ったんですかィ?」


頻繁に出入りするようになって気付いたことだが、この家には無駄な家具があまりない。

実用品についても然りで、殆どのものが必要最低限の数しか揃えられていない。

そして、今手渡されたそれは沖田の記憶にないものだった。


「ん?ああ、それ。沖田くん用」

「…へ?」


しらっと告げられた言葉に、間抜けな声を上げる。


「いつまでも客用の箸使ってんのもなんか変だろ?」


想像だにしていなかった事に、うまく言葉が見つからないが、それはまるでつまり、


「これで沖田くんも「坂田さん家」の一員ってことで」


ポカンと間抜け面をしているだろう、俺の顔をにやにやと眺めるこの人は、わかっていたけど性格が悪い。


「だから、いつでもおいで」


待ってるよ、と今度は淡く微笑んだその人に、堪え切れない、どうしようもない気持ちが押し寄せる。

してやられた悔しい気持ちと、それに負けないくらいの嬉しい気持ち。

この人が、好きだという気持ち。


「…かなわねぇなぁ、旦那には」

「たまには俺だって先手を打ちたいのよ」

「俺ァいつだってアンタに負け通しですよ」


そう言って、笑うその人を強引に引き寄せて、泣いてしまいそうなくらい幸せな気持ちで唇を寄せた。







それはいわゆる


<2010.5.5>


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