あまりにも無防備なその寝姿に、
まるで隣にいることを許されているような気がした、なんて。
言ったら、アンタは笑うでしょうけど。


ぱちり、と目を開くと見慣れた天井が目に入る。
最近では自室の次にお馴染みな、恋人の部屋の天井だ。その静かな部屋に響く寝息にそろり、と視線だけ向ければ、そこには昨夜自分が着付けてやった寝間着を盛大に肌蹴させた恋人が爆睡していた。

(まったく、この人は人の気も知らねえで)

恋人を目の前にしてあまりと言えばあまりな姿と、まるで子供のような寝姿に苦笑いした。それでも普段、飄々として掴みどころのないこの人が、今誰よりも近い場所にいる他人に見せるそれは、信頼の表れのような気がした。
たぶん、こんなことを言うとこの人は笑うと思うが、そうならいい、と思う。

(…幸せそうな顔して)

ごろり、と体の向きを変えて改めて恋人を眺める。
肌蹴た胸元には昨夜、己が散らした印が見え、朝の光に照らされた恋人の白い肌にことさら浮いて見えた。普段の服装を考えると、見えるか見えないかのギリギリのラインで付けられたそれらを見たら、また文句をつけられそうではある。そうしたら、今度は詰る気さえおこらなくなる位つけてやろう、と笑いながらそっと、目元にかかるその柔らかな髪に手を伸ばす。

(あ、睫毛までぎんいろ、だ)

普段死んだ魚と例えられる、血色の眼を隠す瞼を縁取るのは特徴的な髪色よりも、もっと儚い色をした睫毛。今の今まで気付かなかったが、朝の光の中できらりと光るそれは、綺麗だった。

(きれい、なんて、男に使う形容詞じゃねーと思うんだけどなァ)

そう考えながら、掠めるように、その目元をそっと撫でる。

「ん…?」

すると、微かな接触に反応したのか、小さな声とも寝息ともつかない音を出して、閉じられていた瞼が開く。

「旦那?」

「ん…」

起こしてしまったな、と声をかけると、未だ夢の中の表情の恋人の眼は少しの間あたりを確認するように動き、最後にひたりと自分を見据えると、薄らと笑った。
本当にそれはこどものように、まるで幸せだというように。

(そんな顔をされたら、ますます許されたつもりになっちまう)

幸せな気持ちでそう、嘆いて、この気持ちがこの人に少しでも伝わるようにと願いながら、そっと口づけをした。


俺がそうであるように。
俺が隣にいることで、あなたに幸せというものを感じさせることが出来るなら、なんて。
絶対に笑われるだろうけど、そうならいいと、本気で思ってるんだ。









そんな顔であなたがわらうから


<2010.5.5>



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