銀時が眼を開くとそこには見慣れない、しかしどこにでもありそうなホテルの天井が広がっていた。

視線を横に向ければ、気持ちよさそうに爆睡する恋人の姿。

その眼を閉じた顔は普段の憎たらしさの面影も見当たらない程可愛らしいこの年下の彼氏は、

昨夜も手加減など一切なしの無体を散々働いてくれた。

翌日、体の節々が軋む度に次からはよく言い聞かせないとと思うのだが悲しいかなそれがうまくいった試しは今のところ一度もない。


(ったく、幸せそーな顔で寝こけやがってよー)


恋人の寝息をBGMに身支度を整えようと起き上り、慣れ親しんだ天パを掻き廻そうとしてふと違和感に気付く。

側頭部になにかついている。

恐る恐るその「なにか」に触れると明らかに髪の質感とは違う、固いような柔いような妙な感触。おまけに触るとこそばゆいときた。

それはぴったりと銀時の頭部に張り付いているようで少々引っ張ったくらいでは取れる気配もない。

そろり、とベッド横の鏡台を覗き込み。




「ぎ、ぎゃああああああ!」




世にも恐ろしい現実に悲鳴を上げた。








(えええええ、ちょ、えええええ?!可笑しいだろ!コレ!どう考えても可笑しいだろ!)


銀時が恐々と覗き込んだ鏡の中にいたのは紛れもない自分だった。

それも猫耳が生えた。

銀髪に埋もれるように鎮座するそれは、決して三十路前のおっさんの頭部に生えていて良い代物ではなかった。


「ななななんでこんなもんが俺の頭の上についてんだ?!」

「喧しいですぜ…旦那ァ」

「!」


もぞり、と恋人が起き上る気配に慌てて足元に落ちていた自らの着物を頭から引っ被る。

自分でも一体何をしているのかと自分にツッコミたい気持ちでいっぱいだが、反射的に身体が動いたのだから仕方ない。

ああ、半身を起こしたらしい沖田の訝しげな視線が背中に刺さる…。


「なにしてんですかィ」

「べべべべつになんでもねェよ!?お、俺ちょっくら風呂はいってくらぁ!」


そんな下手な言い訳を沖田が聞き入れる筈もなく。

着物の端を思い切り引っ張られ、そのままの勢いで沖田に向かって倒れこむ。

そして、驚いたようにこちらを見下ろす沖田の大きな眼に映る自分は、やはり猫耳姿のままだった。





「で。どうしたんですかィ、それ」

「…んなのは俺が一番聞きてーよ」


お互いにベッドの上で向き合い直し、改めてといった風に沖田が問う。

しかし、その問いに銀時は唸るように答えるしかないのだ。

しかも起きた時には気付かなかったが、よくよくみると耳だけでなく尻尾までついていた。

大の男に猫耳、猫尻尾。

どう考えても性質の悪い罰ゲームである。


「いやぁ、見事に頭にひっついてんですねェ。これ、聞こえてんですかィ?」

「沖田…てめー面白がってんだろ」


項垂れる銀時を尻目に、銀時の猫耳を軽く引っ張りながら興味深々と言った顔で聞いてくる沖田にひくりと青筋を立ててみせるが、

そんな事はどこ吹く風で沖田は気にもせず耳の縁を指でつつっとなぞる。


「っひ!」


ぞわりと背中を駆け抜けた感覚に小さく飛び上がる。


「…ふぅん?耳、感じるんですねェ」


そんな銀時の様子を見て、にたりと沖田が笑う。


「さ、触んな、ばか!ちょ、あっ」


制止する間もなく引き寄せられ、今度はかぷりと耳を甘噛みされる。

その刺激に耐えきれず、ぎゅっと眼をつぶると今度は人の耳を舐められる。


「旦那、可愛い」


力の抜け始めた銀時の身体をベッドに再び沈ませ、くつりと笑う。





「こんな可愛いネコには、鈴つけとかねーとねェ」








お手を触れないでください!





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