「風呂あいたぞー」


おざなりに髪を拭きながら部屋の中に居るだろう同居人に声をかける。

そして、さて今日は風呂上がりの甘味は何にしようと考えながら冷蔵庫の前にしゃがみ込むのはもう日課の様なものだ。


「いちご牛乳にするか、バニラアイスにするか…」

「まぁた、悩んでんですかィ」

「バッカ、これはなぁ人類が必ずぶち当たる究極と至高の選択なんだよ」

「ぶち当たってんのはアンタだけのような気もしやすがねェ」


背後から掛けられた声に首を動かすと呆れたような、面白がっているような。そんな表情をした沖田が立っていた。

一緒に暮らし始めてかれこれ1か月。毎日のようにこんな問答を繰り返している。


「んー、今日はキンキンに冷えたいちご牛乳…いや、やっぱりバニラアイスも…」

「つーか、頭ちゃんと拭きなせェ。風邪引きますぜ」

「あー?放っておきゃあそのうち乾くだろー」

「ったく、仕方のねー人だ」


そんな風にものぐさ極まりない答えを返せば、首にかけていたタオルを奪われ、わしわしと髪を拭かれる。

面倒そうな声音に対し、タオル越しのその手つきはやたらと慎重だ。

まるで柔いものを壊さないように恐る恐る触るといった態で、そんなに心配しなくても簡単には壊れねーのになと思う。

そういえば末っ子だと言っていたから、こういうのは主にするよりされる側だったのだろう。

誰かに甲斐甲斐しく世話をされる幼い沖田を想像し、その微笑ましさににまにましているとそれを見咎めた本人が訝しげに眉をひそめる。


「…なに笑ってんですかィ?」

「んーあんま人の頭拭くの慣れてないのかなーと」

「痛いですか?」


素直に告げると、見当違いの方向の答えが返ってくる。

見下ろしてくる瞳が少し不安げで、それがなんだか可愛く見える辺りがコイツの怖いところだよな…まあ、別に良いんだけど。


「つか、むしろくすぐってぇ。男の頭なんざそんなに丁寧に扱わないでいーんだよ。もっと力込めてガシガシ拭いちゃって」

「自分で拭こうとは思わねー訳ですねィ」

「だって楽チンだし」

「全く…」


そんな会話をしている間にも段々と力加減のコツが判ってきたらしい。

時折押されるツボらしきポイントも心地よくて、思わずうっとりとしてしまう。


「旦那」

「んー」

「なんかムラムラしてきやした」

「…は?」


言われると同時、その場に転がされて夢見心地だった頭が急に現実に帰る。


「旦那があんまりエロい顔するからいけねーんですぜ?」


見下ろしてくる瞳は先ほどとは打って変わって、意地の悪いいつものそれで。


「ちょ、待て!俺、風呂入ったばっかだし!」

「そんなん後でもう一回俺と入りゃあいいだけでさァ」




ああ、そしたら今度は髪だけじゃなく、全身くまなく俺が拭いてやりますぜ。旦那は楽チンなのがお好きですもんねェ。

なんて言いながら、にやり。と笑うその顔があまりにも悪魔じみていて。




今後一切、コイツに頭拭かせるとかしないと誓った。








くれぐれも油断は禁物です




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