通りに夕餉の香りが漂う夕方。
夜の街、かぶき町近くの商店街でもそれは例外ではなく、今日の夕飯の材料を買い求める人で賑わっていた。
そんな中を特に目的もなく、ぶらぶらと歩く。
沖田はこの時間の商店街の賑わいが嫌いではなかった。
故郷である武州ではこんな便利な所はなかったけれど、帰る家を前にした人々の表情はそれが田舎だろうと都会であろうと変わりはしない。
皆一様に今日の仕事を終え、食材を抱えながら家で待つ家族の顔を思い浮かべて家路を急ぐ。
その表情は人それぞれであっても、どこか優しい。
それを見るのが好きだ、ガラではないから決して口には出さないが。
商店から漂ってくる惣菜の美味そうな香りにヒクリと小鼻を膨らませ、そういえば腹がへったなァと思う。
そろそろ屯所に戻るか、と考え始めたところで不意に視線の端を横切った銀色にはっとする。
慌てて後を追いかけてその人を呼びとめれば、大きな買い物袋を両手にぶら下げた銀時がおや。という顔でこちらを振り向いた。
「あれ、沖田くんじゃん。珍しいね、こんなトコで会うの」
「そうですねェ。旦那は買い出しですかィ」
「いつもは新八の担当なんだけどなー今日は買い出しいけねーっつーからよ。神楽にゃ一人で買い物なんて任せらんねーし、連れてくるとそれはそれで面倒だしな」
心底面倒くさそうに銀時がため息を吐く。その様子がなんとも所帯じみていて可笑しい。
実際、彼らは『家族』のようなものなのだろう。その証拠にその面倒くさそうなセリフ一つとっても、それはどこか優しいのだ。
その事が、恋人としてまるで羨ましくないと言えば嘘になる。
「今日の晩飯はなにするんですかィ?」
「ん?うちはカレー」
「へー、いいですねェ」
銀時が下げている買い物袋を覗き込みながら聞く。
答えを聞くとなるほど、確かにじゃがいもや人参の姿が袋の中にある。
袋の端の方にはチョコレート菓子の他にそっと酢昆布も紛れていて、それがなんとも彼らしい。
「カレー、好きなの?」
「いや、特別に好きって訳じゃねーです。でも、よそんちが今日はカレーって聞くと羨ましくなりやせんか?」
「何だそりゃ」
「笑わねーで下せェよ」
沖田のセリフが可笑しかったのか、ぷっと銀時が吹きだす。
少し子ども染みていただろうか、と思いつつも沖田もつられて笑った。
「そんなに羨ましいんなら今度作ってやろうか、カレー」
「え、マジですかィ?」
「でも材料費は出せよー。そしたらいくらでもおさんどんしてやるよ」
「それは勿論。あ、出来たら買い物も一緒に行きてーです」
「別に良いけど、何で?」
希望をつけると、不思議そうに銀時が子どもの様に首を傾げる。
男がして似合う仕草とも思えないそれだが、彼がやると妙に可愛らしく見えるのはやはり惚れた欲目なのだろう。
「スーパーで二人で買い物なんて、夫婦みてーじゃないですか」
「ふっ…!?」
「そんで坂道を手をつなぎながら登るんでさァ」
「…チャー●ーグリーンかよ…」
『夫婦みたい』という言葉に銀時の顔が薄らと赤く染まる。
更にいつかテレビのCMでみたシチュエーションを冗談で指定すると、まだ少し赤い顔のままでつっこむ彼が可愛らしい。
「約束ですぜ?」
いつか本当の家族みたいに