最初は楽しく酒を飲んでいただけのはずだった。




ガキ共は今日いねーから、たまには宅飲みでもしようや。

そう恋人である沖田を誘ったのは銀時の方だった。

沖田もそれを快諾し、あまつさえ「上物の酒を買って行きまさァ」などと気前のいい事を言っていたのだ。

宣言通り、沖田は約束の時間きっかりに上等な酒を抱えて現れた。

銀時もそれを喜び、二人とも上々の気分でささやかな酒宴は始まったはずなのに。


「…だから、大丈夫だって」


並々と酒の注がれたグラスを傾けながら、銀時はため息交じりに言った。

最初はここ数日にあったことや話題の互いに見たテレビドラマの感想を話していたのだ。

そして、先日受けた仕事の依頼主の愚痴になった辺りで沖田の機嫌が悪くなった。


「んな下衆野郎はその場でのしちまえば良かったんでさァ」

「いやいや、仮にも依頼主だからね?のしちまったら金もらえねーじゃん」


苦笑いで銀時が窘めると、ますます沖田の機嫌が悪くなった。

沖田が怒っているのは、銀時がセクハラ紛いの言動をされた。というのを零したからだ。

とは言っても、本当に些細なものでそれを口にしたのもほんの笑い話の種のつもりだったのだ。

しかし沖田の反応は銀時の思っていたような反応ではなくて、銀時はどうしたものかと頭を悩ませている。


「なんでアンタはそう暢気なんですかィ。万が一の事があってからじゃ遅いんですぜ」

「万が一って…ありえねーだろ」

「何、惚けた事言ってんでィ。いつも年下の俺に組み敷かれてるのは他でもねーアンタだろィ」


連ねられる言葉に、俺ってそんなに信用ないのかね。と段々イライラしてくる。

もしもその万が一が本当に訪れたとして。

自分がそれに甘んじるとでも思っているのだろうか?


「…何だそれ。お前の中で、俺って押し倒されれば誰にでも脚開くような奴な訳?」


それまでチビチビと舐め続けていた酒を置き、苛立ちを隠さずに問う。


「確かに俺はちゃらんぽらんかもしんねーけどよ」


隣に座る恋人をじろりと睨みながら言葉を続ける。

「好きでもねーヤツに好き勝手させる身体は生憎持ち合わせてねぇよ」


そう言い放ってから視線を再び沖田に向けると、先程までの不機嫌面は何処へやらの珍しいぽかんとした表情をしている。

その様子にあれ?と首を傾げて先程自分が口走ったセリフを反芻し、途端に慌てだした。


「や、あの。別にそういう事が言いたいんじゃなくてだな!」

「…じゃあどーいう事が言いたいんで?」


銀時が慌てだしたのを見て我に返ったのか、打って変わって上機嫌ににじり寄りながら沖田が問う。


「だから、その、心配すんなって…つーか!顔近い!ちょ、おい、何処触ってんだコラ」

「良いじゃねーですか。恋人同士なんですから」

「いやいやいや、良くねーよ!まだこんなに酒もつまみも残ってるし!」

「んなのは終わった後で良いでしょうや」

「終わった後って何が終わった後!?」

「何ってナニ?」


するすると怪しい動きをする手から逃れようと言い募るが、終いには煩いとばかりに口付けで封じられる。

口付けが深くなるにつれ、簡単に溶けてゆく自分の理性がなんとも恨めしい。




「クソ…絶対後で飲み直すんだからな」

「いくらでもお付き合いしやすぜ」








犬も食わない、




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