眠らない街と呼ばれるかぶき町は、その煌びやかさで街中を照らす。

そんな中、銀時は珍しく客としてではなく従業員の一人としてネオンの中に居た。


「あー。よりによってまぁたこの恰好する羽目になるたぁな…」


かまっ娘倶楽部の看板を脇に抱えつつ、自らの姿にげんなりとする銀時はまさにかまっ娘――つまり、女装姿である。

つけ毛を付け、化粧をし、男の時には身に纏わない色彩の着物を着ている姿は女性には見えないが、もともと銀時が持つけだるい雰囲気のお陰か妙な色気を出している。

実は店の常連の間ではそれが良いと密かに話題になっているなど、本人は全く預かり知らない事実だ。

いつも大盛況を博している訳ではないかまっ娘倶楽部は、今夜は特に閑古鳥が鳴いていた。

その為、臨時バイトの銀時が女装姿のままで呼び込みをする羽目になってしまったのだ。

往来の中、女装姿を晒すのは楽しい訳はないがしかしこれも仕事。と腹を括り、銀時は呼び込みを開始したのだった。


「おう、どーしたんだい。銀さん、またバイトかい?」

「俺を哀れに思う気持ちがあるんなら、そこの店で一杯やっていってくれや」

「しょーがねぇなー」


「おや、誰かと思ったら万事屋さんじゃねぇかい。いやぁ化けたねぇ」

「うすら寒いお世辞はやめてくれや。それより一杯やってってくれよ。俺より面白れーもんが山程見れるぜ」

「ははは、そうだねぇ。よし、じゃあ飲んでいくか!」


そんな風に着々と仕事を果たしている時だった。


「旦那?」


突然、背後から掛けられた聞き覚えのあり過ぎる声に、ビクリとする。

心底嫌ではあるが大人しく振り向くと、そこには予想にたがわぬ人物。つまりは沖田の姿があった。

沖田は相変わらず一見しただけでは何を考えているのか判らない表情で、しげしげと銀時の見慣れぬ姿を見上げている。

銀時としては恋人にまじまじと似合わない女装姿を見られていると思うと、忘れていたはずの羞恥心が蘇ってきて実にいたたまれない。


「随分と別嬪さんになってますねェ」

「沖田くん…気持ち悪いコメントやめてくんない?」

「本心ですぜ?」

「なおの事気持ち悪りーわ!つか、沖田くんはどうしたのこんな時間に」

「俺は真面目に仕事中でさァ。そういう旦那もバイト中ですかィ」


ちらりと銀時の持つ看板に視線を向けながら聞く。


「うん、今日は客が少なくてよー。でも、さっき何人か呼び込んだからそろそろ戻んねーとなあ」

「一応は客居るんですねィ」

「居る居る、結構常連とか珍しくねーよ?俺も指名される時あるし」

「…ふーん」

「な、なに?」


銀時の言葉に沖田は一瞬何かを考える仕草をし、にやりと笑う。

その笑みに嫌な予感しかせず(なにせ相手は沖田だ)思わず後ずさろうとすると、急に二の腕を掴まれる。


「な…!っ、」

「…白粉の香りのするアンタってのも案外イイもんですねィ」


突然引き寄せられ、距離が縮まったと同時に首筋をきつく吸い上げられる。

鏡を見るまでもなく、絶対にそこには鮮やかな朱が散ったに違いない。


「な…!な…!」

「旦那ァ、顔が真っ赤ですぜィ」

「誰の所為だァアアアア!往来で何してくれてんの!」

「マーキングでさァ。あ、大丈夫ですぜ。つけ毛で隠れそうな位置にしたんで」

「そういう問題じゃねーよ!大体それ、つけ毛取ったら見えるってことじゃねーか!」

「おお、そういえば」


ぽん、とわざとらしく手を打つ沖田に向かって食い付いていると、遠くの方から銀時を呼ぶ声が聞こえてきた。

どうやら本当に店に戻らねばならないようだ。


「げ」

「どうやら時間切れみてーですね」

「てめー次会った時覚えてろよ…」

「楽しみにしてまさァ」


そう言ってにこり、と良い笑顔で笑う沖田を殴りたいと思う銀時を一体誰が責められようか。

そして、案の定というか何と言うか。店に戻ったと同時にキスマークを発見され、

銀時は恋バナ大好きな乙女集団(青髭付き)に事の次第を激しく問い詰められる事になるのだった。








彼は魅惑の夜の蝶




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