ホテルの一室に入ると同時に壁に押し付けられ、唇を吸われる。

10年来の恋人である沖田ともう何度そうしたかなんて覚えてなどいない。

沖田はなおも軽い口付けを続けながら、すす、と開き気味の俺の胸元を指先で撫でてくる。

その仕草も、一体いつから始まったのかも判らないくらいのコイツの癖だ。

そして、そうされると俺もスイッチが入ったかのように途端に興奮してしまうのだから本当に始末に負えないもんだ。


「旦那ァ、このまま…いいですかィ?」

「…ハナっからヤる気満々のくせに聞いてくんな、アホ」

「ひでぇなあ、俺ァ、アンタの意思を尊重してんのに」

「聞きながら人の服剥いてるてめーに一番言われたくねぇ言葉だな、オイ」

「それもそうだァ」


沖田はくつり、と可笑しそうに笑って、開かれた胸元に顔を埋める為に身を屈める。

出会ったばかりの頃にはまだ差のあった身長も、今は並ぶどころか数センチは見下されているのだ。


「ん、昔はもう少し可愛げがあったのになぁ…でっかくなっちまってよぉ」

「そりゃあ、アンタと付き合い始めた頃はまだ俺も十代でしたからねィ…ん」

「ぁ、付き合い始めの頃は街中で会う度に俺の後を雛みてーにくっついて来てさぁ。かーわいかったよなあ」


あの頃を思い出すと、自然と笑いが込み上げてくる。

今もあまり変わらないが、好きだ好きだと、こんな俺に対して会う度に全力で言葉でも態度でも、

一生懸命に伝えてきていた当時の沖田はやっぱり初々しくて可愛いかったと思うのだ。


「…昔話は後でしましょーや。今はコッチに集中しなせェ」

「んぁ!ちょ、布団で…」

「駄目、我慢出来やせん」


過去に思いを馳せていると、急にきつく胸の尖りを抓られて思わず声が出る。

そしてそのまま逆の手がベルトに伸びてきて、このまま出入口近くの廊下で事に及ぶつもりかと静止してみるが、聞く耳もない。

こうなった沖田は終わるまで止まらない。

それも長い付き合いで良く理解しているから、俺はため息を一つ落としてコイツに身を委ねるしかないのだ。







壁に腕をつき、何も身に纏わない姿で相手に向かって尻を突き出す。

素面であれば恥ずかしくて死んでしまいそうな恰好ではあるが、今の俺にはそんな事はどうでもいい。

ただただ沖田から与えられる刺激が気持ちよくて、くらくらとする。

それだけが全てで、他の事など考える事も出来ない。


「旦那ァ…俺ァまだ指一本しか入れてねーですぜ?なんでもうこんなにトロトロなんですかィ?」

「っは、あ、お前が、いろんなとこ、触るから」

「いろんな所って?」

「あっ、胸…とか、ま、前…」

「旦那は乳首吸われたり、前弄られるだけで尻の中をこんなにしちまうんですねィ…男なのに淫乱だなァ」

「そ、そぉしたのはてめーだろ、が…」

「…そーですねィ。俺が時間をかけて、アンタをそうしたんでしたねィ」

「お、沖…。っ、んぁ!」


くすくすと愉しげに笑う沖田を不思議に思いながらも、急に増やされた指の数に翻弄される。

俺の弱い部分など知り尽くしたその指の動きに、もとより崩れかかっていた理性が音を立てて崩れる。


「っは、ああ!沖田、も…指やだぁ!」

「じゃあ、何がいいんですかィ?教えて…旦那」


耳元に、情欲を堪え切れないと言わんばかりの声音で囁かれる。

そうするとそれだけで、背筋が震えるほどの衝動が駆け抜け、俺はこの先が欲しくて欲しくて堪らなくなる。

そして、いつも涙で霞む視界に沖田を捕らえ、息も絶え絶えに懇願するのだ。


「お前のが、いい…!お前ので、いっぱいに、して」

「…良く出来ました」

「ああぁ!」


腰を引き寄せられ、思い切り奥まで突き刺される。

奥まで満たすその質量に、体重を支えている足も震え、力が入らない。


「んっ、あ、ぁ」

「はっ、だんな、」


ガツガツと貪られる感覚に前後不覚に陥る。

沖田に慣らされた体が、自然と彼の形に開いては絡みつく。

言い様のないその気持ちよさに、ぐらぐらと身体中の血液が沸騰しそうだ。


「あぅ、は、んん」

「っ、銀、時さ、一緒に、」

「う、早く、もぉ、あ、ああ!」

「っく」


苦しげな声で名前を呼ばれ、一層激しく突き動かされる。

既に限界間近だった俺がそれに耐えることなど出来る筈もなく促されるまま、欲を勢い良く吐き出す。

そして沖田もまた、射精の快感に締まる腸壁の動きに耐えかねたのか、小さな呻きを一つ吐いて達した。








「身体の節々が痛い」

「…すいやせん」


柔らかい布団の上ではなく固い床で最後までやってしまった為に冗談ではなく身体中が痛い。

こちとら四十を手前にしたオッサンなのだ。若い子と同じような無茶はそうそう出来ない。

今は後始末まですべて終え、グシャグシャになってしまった俺の上着の代わりに沖田が脱ぎ捨てたワイシャツを羽織って、布団の上で沖田に文句を言い連ねている真っ最中だ。


「…ちゃんと布団に行こうって言ったのに」

「今は布団の上じゃねーですかィ」

「全部終わった後に居てもしょーがねーだろがァアア!」

「はぁ。まあ、そうですね」

「何その気の無い返事!」

「だって、アンタが昔の俺の方が良いみてーな事言い出すから」

「…は?」


ぶーぶーと文句を垂れていると、沖田の手が頬に添えられる。

そして、何とも言えない困ったような笑みでぼそりと沖田が言ったそのセリフは俺の想像を超えたものだった。

えーと、つまりそれは。


「お前、自分に嫉妬してんの?」

「…悪いですかィ」


途端にむう、と子どもの様に眉間に皺を寄せる沖田に思わず笑いが込み上げる。

堪え切れないそれが顔に滲んでいるようで、彼の柳眉がますます歪む。

やばい。この子、本当に可愛い。


「そりゃあ勿論、昔の可愛かった沖田くんも好きだけどさ。俺、今の恰好可愛い沖田くんの方が好きよ?」

「え」

「だって、今の俺の隣に居るのは今の君なんだしさ」


そう言って笑ってみせると、沖田の顔が珍しく赤く染まる。

かくゆう俺の顔もきっと赤くなっているだろうが。


「…えーと、だから、まあその」

「アンタには本当に敵わねェ…」

「うん?」

「まったく…きっと爺さんになっても俺が旦那に敵う日は来ねー気がしやすぜ」

「大袈裟じゃねぇ?」

「んなこたねーですぜ。きっとずっと。死ぬまでアンタにゃあ勝てねえ」


そう言って笑う彼は、きっと俺がまるで同じ事を思っているなんて気付いていない。

ずっと、なんて。そんな夢みたいな事、俺は今まで信じちゃいなかったから。

それを容易く肯定する沖田がこの上もなく眩しくて、いとしい。




だから、きっと。死ぬまで勝てないのは俺の方だ。



いついつまでも

<12.2.15>

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