「まったく、ガキはこれだからハタ迷惑なんだよ」


大きく蹴破られた窓ガラスから吹き込むビル風。

それに着物を弄ばせながら、今やっと新八と本当の文通を交わせた少女が、小さく嗚咽を繰り返している。


(やれやれ…)


その光景を眺めて、銀時はため息を吐いた。

今日は子どもたちに振り回されっぱなしで、碌な一日ではなかったような気がする。

しかし、最後はこうして納まるところに納まった。つまり、碌な一日ではなかったが、悪い日ではなかったのだろう。


「まー、終わりよければ全てよしってか?」

「良かねーですよ」


背後から呆れかえったような声がする。

それは今日一日、銀時を振り回しまくった子どもたちのうちの一人、沖田のものだった。


「お疲れ様でさァ、旦那」

「おーう、お疲れー。さっきはさんきゅーなー」

「旦那も無茶しやすねェ、俺が鎖を投げなかったらどうするつもりだったんですかィ?」

「んなもん考えちゃいねーよ、そん時はそん時だっつーの」


沖田の問いに答えながら、立ち上がる。

服のそこかしこに埃やガラスの破片がくっついていて、それを簡単に手ではたいて落としている時だ。


「…何か落ちやしたぜ」

「あ?ああ、それか」


着物をハタハタとさせている拍子に懐から滑り落ちたものは、新八の文通云々の際に使用した偽新八――もとい、沖田の写真だ。


「これ、持ち歩いてたんですかィ」

「…なにそのにやけた顔。言っとくけど、お前が考えそうな理由で持ち歩いてたわけじゃねーからな」

「へー、俺が考えそうな理由ってなァ、なんですかねェ」


にや、と大きな眼を猫のように細めながら沖田は銀時を覗きこむ。

その顔に銀時は心底嫌そうな顔をしてみせたが、沖田はそんな事はまるで気にした様子もなく銀時との距離を縮める。

まあ、少々の嫌みなどにこの子どもが怯むことなどないと、銀時も重々承知はしているのだが、

こうして実際に目の当たりにすると、やはりひくりと片頬も歪む。


「沖田くーん、大人をからかうのもいい加減にしなさいよ」

「別にからかってやしやせんよ」

「嘘つけ!完全に俺で遊んでるだろーが」

「ひでぇーなァ、俺ァ純粋に聞いてるだけなのに」

「てめーのドコを押せば純粋なんて言葉が出てくんだ」


これまたひでぇや、と言って笑う沖田を苦々しげに見下ろして、ため息を吐く。

沖田と喋っていると、調子が狂う。この子どもはいつだって飄々としていて、好き勝手だ。

その勝手気ままさは、最近は銀時ですら流されそうな時があるほどで。

マイペースさは己も引けを取らないと思っているだけに、複雑な心境だ。

まあ、その心境も一回り近く年下の子どもにいつも振り回される大人ってのも恰好がつかないよなぁ。という程度のものなので、

本気で嫌がっているわけでもなく、むしろ大体は沖田のそういう部分も好ましく思ってはいるのだが。

そんな風に銀時が悶々としていると、ふと遠くで沖田を呼ぶ近藤の声がした。

沖田はそれに対して気の抜けた返事を一つ返すと、思い出したように持ったままだった写真を銀時の手のひらに押し込んだ。


「コレお返ししやす。あと、ひとつ旦那にお願いが」

「お願い?」


お願い、と沖田にしては控え目な表現に、銀時はことりと首を傾げる。


「今度、アンタの写真を俺にも撮らせて下せェ。俺も好きな人の写真欲しいんで」

「っだっから!違うっつーの!」


その写真、大事にして下せェねー。とこちらの言い分も聞かず、続けられた言葉に銀時は恥ずかしさのあまり写真を握りつぶしたとかいないとか。








誰もが一度は思うでしょう?




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