銀魂高校3年Z組。
そこは校内でもお騒がせクラスとして有名で、所属する生徒たちは皆一様に変わり者だ。
変人揃いの3Zと噂される程のクラスだが意外や意外、他の生徒たちからの人気は高い。
特に今まさに数メートル先で告白されている沖田などは、その爽やか然とした容姿で女子人気が異様にある。
それは、その可愛らしい容姿を台無しにする程に腹の中が真っ黒を通り越したどす黒さである事と、
他人をからかう事を生きがいとしているかのような悪ガキぶりが校内中に知れ渡っているのに、だ。
屋上の片隅で煙草を燻らせながら、銀八はぼんやりと少女の精一杯の想いを聴いていた。
決して出歯亀をしようとここに居るわけではない。
たまたま屋上でひとり煙草を吸っていたら出入口近くで事が始まってしまって、退散したくとも出来ないのだ。
あちらからは物影に位置するこちらが見えないのがせめてもの救いだが、正直こうしているのも辛くなってきた。
この一本が終わるまでに決着がつけばいいんだけどなーと思いつつも煙を大きく吐き出す頃、
懸命に恋心を喋り続けていた少女の声が、沖田の静かな声でピタリと止んだ。
「俺、好きな相手がいるんで、」
だからごめんなさい。沖田がそう言うと、少女は明らかに意気消沈した声音で一言、二言と何か呟き、
それに対してまた静かに沖田が返答すると、トボトボと出入口へと向かって行った。
二人が去るのを聞き届けて、ため息を吐く。
「好きな相手、なぁ…」
じりじりと灰に変わっていく煙草を見る。
つい先程、少女に言った沖田の想い人を銀八は知っているが故だ。
「こんなオッサンより、女の子の方が良いに決まってるのにな、馬鹿だなーアイツ…」
ある日、突然好きだと言われた。
沖田にとっては突然でもなんでもなかったのだろうが、銀八にとっては突然の告白だったのだ。
同じ男で、しかも教え子からの想いに戸惑うばかりで。
未だに告白の返事を返せていない。
答えはNOだと、突き放してやるべきなのに。何故か自分は沖田と対峙することを逃げ回っている。
…何故か、か。と、思いをそこまで巡らせて、その答えを振り払うようにまたため息を吐く。
「なにため息吐いてんですかィ」
「…お前、戻ったんじゃなかったの」
驚いて振り向くと、つい先程ここを去った筈の沖田が佇んでいた。
「戻ったフリしやした」
「バレてた?」
「俺には。アンタの煙草の香りがしたんで気付きやした」
「あー…」
風上だったか、と沖田に向かって煙が流れるのを見て、すっかり短くなった煙草を携帯灰皿に押しつける。
そうしている間もじっとこちらを見ている沖田の視線に居心地が悪く、言い訳を探して視線が泳ぐ。
「えーと、聞こうと思ってた訳じゃなくてだな、」
「別に責めに来た訳じゃありやせんよ」
もごもごと言い出そうとしたところを制されて、首を傾げる。
「アンタがこの前の事に何て言うつもりなのか、判ってるんでさァ」
でも、と、続ける声は相変わらず静かで、それでいて固い。
「でも俺ァ、アンタが好きだ。諦めろって言われても無理だ。さっきの女には諦めろって自分で言ったけど、俺には無理だ」
「…沖田、」
「すきなんです、」
いつもは決してこちらから逸らそうとしない視線を、今は地面に向けて想いを告げる沖田の姿を見て、苦笑う。
先程から胸をきゅうきゅうと締め付ける、この感情に名前が付いたような気がする。
「言っとくけど俺、独占欲スゲーよ?」
その言葉を聞いて、俯いていた頭がすごい速さでこちらを向く。
「いいんですかィ?」
「駄目ならこんな事言わねーっつの、バーカ」
大きな瞳をさらに大きく見開いて問うその顔がなんだかおかしくて、ぐりぐりと乱暴に頭を撫ぜる。
それをやめてくだせェ、と言いながらもどこか嬉しそうに笑う沖田が可愛いと思う。
「…馬鹿でいいんでさァ、その方がアンタと釣り合いが取れらァ」
「それって俺も馬鹿って言いたい訳?」
「ご想像におまかせしまさァ」
「可愛くねーな、お前」
「アンタはまるでガキみてーで、可愛いですね」
「ったく…でもま、やっぱこっちのが良いな」
「は?」
すとんと憑き物が落ちたように笑う沖田を見て、こっちのほうがずっと良い、と本当に思う。
「んー?さっきまでのシオシオしたお前より、今の小憎たらしいお前の方が好きってことだよ」
燻る煙と、