※銀さんが非常にウジウジしています。そういうのは苦手、という方は退避をお願いいたします。
度々感じる視線。
それが腐れ縁の子どもからのものだと気付いた時は正直、驚いた。
だって隠す事をしない、その瞳が語るのは、胸の内が焦げるような熱さを含んだ、紛れもない恋情で。
ああ、沖田くん。俺は君の事、割と気に入ってるんだ。
ねえ。だからこんな大人なんかやめておいた方が良いよ。勿体ねぇよ。
うん、絶対に。
…そう、絶対だ。
「俺ァ、アンタが好きです」
コップに注がれた美味くもないファミレスのお冷をちびりと舐めた後、沖田ははっきりとそう言った。
もう何度目か判らない沖田からの告白。
それを聞きながら俺はいつものように、それが自分にとってなんでもない事のように受け流す。
「おー、銀さんも沖田くんのこと割と好きよ」
「…相変わらず、ヒデェお人だなァ」
最近は沖田の方もそれには慣れたものなのか、わざとらしくため息を吐いて笑う。
それを目の前のパフェからほんの少し外した視線で捕らえて、苦笑する。
「そう思うなら言わなきゃ良いのに」
「それは嫌でさァ」
「どうして?」
「アンタを前にすると、好きだと言わずにはいられねぇから」
「…ホント、物好きな子だよ、君は」
つれなくしても、かわしてみても、沖田は諦める事がなかった。
それは若さゆえの勢いなのか、意地なのか、なんなのかは判らないが。
それでも、俺はその想いに応えるわけにはいかない。
「俺ァ諦めるつもりはねーですから」
「脈の無い相手に尽くすなんて沖田くんって本当はドSじゃなくて、Mなんじゃねーの?」
「旦那相手だったら、主義変更したって構いやせんぜ?」
「うわー。Mな沖田くんとか、なんかキモチワルイわー」
もうこの話はお終い、とばかりに軽口を叩けばそれに乗ったフリをして笑ってくれる。
そんな子だから、こんな俺には勿体ないほどの子なんだから。
だから、俺は君を選ばない。
ぼんやりと団子屋の軒先で茶を啜る。
珍しく万事屋の仕事が立て込む日々が続き、久々の甘味タイムだ。
みたらし団子を頬張りながら、至福のため息を漏らす。
そういえば、最近は慌ただしい毎日だったために沖田と顔を合わす事もなかった。
自然とあの子はどうしてるかな、などと頭の隅で思う自分に気付き、そんな自分を嗤う。
好きだと、初めて言われた時、本当は嬉しかった。
告げられる前から勘付いていた事実であっても、好意をはっきりと示されるのはまた違った感慨を生むものなのだと、その時知ったのだ。
そして、己の気持ちも。
だが俺は降って湧いたように自覚したその感情を見なかった事にした。
いたいけな青少年の未来に影を落とすのは忍びなかった、訳ではなく。
そうやって言い訳を吐いて、近付くことも近付かせることも是としない、ただの臆病な心ゆえに。
(好きだと、思ってもらう価値もねェよ)
そう思いながら齧りついた最後の一串のみたらしは、心なしかしょっぱい味がした。
惨めな、嘘吐き
<11.9.19>
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