寝起きの眼を何度か瞬く。

真夜中、眼が覚めたら目の前に健やかなこどものねがお。

酷い痺れを訴える俺の右腕に頭を乗せて、安穏と横に転がる相手をまじまじと眺める。

いつもの隊服のジャケットとスカーフがないだけの恰好、昨夜は招き入れた記憶がないので不法侵入なのは確実だが、

それでも堂々としているのはこの相手であるから仕方のないことか。

…とりあえず、腕が悲鳴を上げてるので今すぐどかして寝直そう。

問答無用で外に放り出さない銀さんはマジやさしーよ、うん。


「おい、起きろ」

「……ぐー」

「ぐうじゃねーよ、寝たフリすんな」

「…なんでィ、バレたか」

「普通にやる気ないだろ、沖田くん」

「ヤる気は満々ですぜ」

「なにをする気だ、何を!」


声をかければ、案の定あっさりと眼を開いて少しの眠気も感じさせない応酬が始まる。

大方俺が眼を覚ます気配で意識が浮上したのだろうが、それにしてもやけに上機嫌だ。


「ったく、一体なんなの、君は。つまるところ、何しにきたの」

「そりゃあ、アンタに会いに来たんですよ」

「こんな真夜中に?」

「今じゃなきゃ意味がないんで」

「俺、寝てたじゃん」

「こうして起きたじゃねーですか」

「腕痛いんですけど」

「ああ、アンタの顔を近くで見てたかったから、借りやした」


連ねられるあまりに自分勝手な論法に頭を痛めていると、おもむろに懐から携帯を取り出した沖田はそれをぱかりと一度開くと、すぐに用済みとばかりに遠くへ投げた。

ぼす、とくぐもった落下音が聞こえ、それは少し離れた場所に丸められた沖田自身の上着に着地したのだろう。

しかし、ますます意味が判らない。


「よし、」

「沖田?ほんとなんなの、一体」

「だんな、クチあけて」

「は?なにとつぜ、んむ」


成立しない会話に反論している途中で、突然ぽいと口の中に放り込まれたものが何かを理解する前に唇を塞がれる。

ころころと舌先を転がるそれを追いかけるように絡められる舌の心地よさと、口の中に広がる優しい甘さに逆らえず、ついうっとりと瞼を閉じてしまう。


「ん、は」

「はは、旦那かわいい」


やがて甘さが溶けるように消えるとゆっくりと唇が離され、吐息が触れる位置で微笑まれる。


「…イチゴ味?」

「正解でさァ」


見慣れたパッケージを取り出して、目の前に押し出される。

その勢いに箱の中のチョコたちがガラガラと音を立てて存在を主張する。


「だって今日はもうバレンタインですぜ?」

「あ。あー…」

「どうせアンタは忘れてると思ったんで、勝手に貰いにきやした」


沖田はそういうと、もう一度軽く俺の唇に吸いついてきた。

唇同士が離れる時の音が無性に恥ずかしく、少々乱暴に身体を引き剥がしてしまう。


「ひでーや旦那ァ。チョコ、くれねーんですかィ?」

「や、そもそも用意してねーし!やるもんがないから!」

「やだなぁ、ここにあるじゃねェですか」

「それはお前がもってきたヤツだろーが!ちょ、にじり寄ってくんな!」


にこにこと、清々しいほどの笑顔を浮かべる相手に戦慄を覚えながら、

またも強引に押し込まれた甘いチョコと、一緒に落ちた口付けの甘さに、俺は観念して目を閉じたのだった。















(来年はチョコプレイ、しやしょうね)
(…するか、バカ!)

<11.2.14>

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