黒いパイプベッドにはフラッグチェックの目に痛い布団カバー。ガラステーブルの上には吸殻がこんもり溜まった灰皿に、ひしゃげたビールの缶。部屋の隅に置かれた小さな冷蔵庫には、毒々しい色合いのステッカーが幾重にも重ねて貼られている。
この通い慣れたワンルームこそが、ナマエにとって最高で最愛の空間。いつもと変わらぬ光景、いつもと変わらぬ時間を過ごす。
でも言葉にはせずとも、今日この時を此処で過ごせることは、ナマエにとって大きな意味を持っていた。部屋の主である真っ赤な髪の厳つい青年が何を思っているのかは別として……。
「ていうかキッド先輩、せっかくの連休に何やってんの」
「おまえがな」
「いやいや、今日が誕生日のアナタに言われたくない」
「……んだよ、知ってたのか」
「ロー先輩に教えてもらったんでーす」
「ホント余計なことしか言わねェな、アイツは」
二人して手にはコントローラー。テレビ画面から目を離さぬまま会話を続ける。
若い男女がひとつの部屋で肩寄せ合ってすることがテレビゲームとは、何とも切ないお話である。現代の少子化の原因の一端は、こんな所に潜んでいるのではなかろうか。
「あはは、まぁ存在自体が余計な要素だけで成り立ってますからねーあの人は」
「違いねェ」
「何ですかそれ、キラー先輩の真似?似てなーい」
「おまえも大概、余計な一言が多いよな」
「てへぺろ」
「うぜェ」
画面に映し出されたGAME OVERの文字に小さく舌打ちしてから、煙草に手を伸ばすキッド。
「ていうか誕生日に後輩とテレビゲームって寂しすぎじゃない?」
「呼び出したらソッコーやって来た暇人に言われたくねェ」
「愛の力ですかねー」
「ハッ……ほざいてろ」
鼻を鳴らしながらガシガシと頭を撫でてくるキッドの手に、鳥の巣みたいになった髪の毛を直しもせずケラケラと笑い声をあげるナマエ。
「……まァでも、おまえと過ごすのも悪くねェ」
口に咥えた煙草に火を点けるため、口元を片手で覆ったキッドがボソリと呟く。その所為で声はくぐもっていたし、表情も窺えない。けれど赤い髪から覗く耳が、少しだけ朱に染まっていたのを見つけて、一際嬉しそうにナマエは笑った。
特別な今日にありきたりな一日を君と(ベタにプレゼントは、あ・た・し?)
(おまえ、ホント一言余計な)
(じゃあキッド先輩が黙らせて下さいよ)
(……言ったな?)
HAPPY BIRTHDAY!KID★
2011.1.10
2013.6.23修正