今日も今日とて、残業からの終電コースだ。今週を乗り切れば、多忙を極める仕事も少しは落ち着くはず。そう自分を励ましながら、自宅アパートの最寄り駅近くのコンビニで、売れ残りのお弁当と明日の朝食用の菓子パンを買って帰る。
「あー疲れたー…」
無意識のうちに零れ出た自分の声が思いのほか疲れきっていて、何だか笑えてくる。とりあえずご飯は買ってきたものの、もうこのままベッドに倒れこんで寝てしまいたい気分。何とか最後の気力を振り絞って、カバンから取り出した部屋の鍵を鍵穴へ差し込めば。
「おかえり、ナマエ」
「え、うわっ!」
「なんだその反応は」
「来てたの、ペンギン!?」
カチャリと施錠が解かれる音と、飛び込んできた部屋の明かり。その先のキッチンで鍋をかき混ぜていたのは、一週間ぶりに見る恋人の姿だった。連絡なしにやって来ることは珍しいから、必要以上に驚いてしまった。
「仕事が忙しくなるとは聞いていたが……毎日この時間か?」
「まぁね、今週いっぱいは仕方ないかなぁ」
「だからって晩飯をコンビニ弁当で済ますな、体が資本だろう」
「だってこの時間じゃお店も開いてないし、自炊なんて無理だもん」
提げていたコンビニ袋を目敏く見つけたペンギンが、少しだけ渋い顔をする。わたしの体を心配して言ってくれているのは分かるけど、今はそれよりもとハイヒールを脱ぎ捨てる。ああこの解放感、たまらない。
ぺたぺたと薄いストッキングだけを纏った足でフローリングを歩けば、またしてもペンギンが無言の圧力をかけてきたので、何か言われる前にすぐにスリッパを履き直した。ペンギンのこういうところ、ほんと母親みたいだなぁって思う。
「まぁそうだろうと思って来たんだ」
「すごいね、ペンギン。お見通しだ」
「ハヤシライス、食べるだろ?」
「やった! ペンギンの作るやつ、好きなんだー」
キッチンに立つペンギンの背中にぎゅっと抱き着く。すーはーと大きく呼吸を繰り返すと、肺に取り込まれるのは彼の匂い。会えなかったのなんてほんの一週間なのに、何だかすごく久しぶりな気がする。
「今日は随分甘えただな」
「んー…充電?」
「ナマエ」
「なーに?」
「無理するなって言っても、おまえは聞かないだろうから」
「……」
「今日は好きなだけ充電させてやる」
腰に回していたわたしの腕をそっと解いて、振り返ったペンギンが正面からぎゅうっと抱きしめてくれた。ぽんぽんと頭を撫でる大きな手が、一週間頑張ったなと褒めてくれているようで。何だろう、張りつめた緊張の糸が一気に緩むみたいな、そんな感じ。
ついでに涙腺まで緩んじゃいそうで、それを隠すようにぐりぐりと額を胸に押し付けた。でもたぶんそんなわたしのこともペンギンは全部お見通しなんだろうなぁ。
「お疲れ、ナマエ」
抱き締める用意ならできているtitle / hmr
2012.12.25