「はァ!? 何もしてねェって、おいマジかよ……」
「ペンギンおまえ、まだ若ェのに……もう使いモンになんねェのか」数日前に甲板で交わされたシャチと船長の言葉が、こんな時だというのに脳内の斜め上辺りをくるくる軽快に回りながら過った気がした。
あぁそうだ、おれは今混乱している。何故って?そんなの決まっている。原因はコレだ、今まさにおれの背中に押し付けられている柔らかな感触。
小柄な割に意外と育っているナマエの胸。たぶんDカップくらいあるんじゃないだろうか。……なんて目測出来る程に、おれの視線はいつもナマエに釘付けだ。文句あるか。
――船長、シャチ……悪いがおれはナマエの身体に興味が無いわけでも、勃起不全なわけでもない。
現に今もこの襲ってくれと言わんばかりのシチュエーションに下半身の興奮は高まるばかり。後ろからナマエに抱きつかれている体勢だからごまかせてはいるが、実は前屈みになっているしな。
「ペンギン、行っちゃやだ」
「ナマエ、分かったからとりあえず腕を離せ」
「やだっ! 離したら絶対出てくもん」
「……ナマエ」
「……ペンギンは、わたしのこと嫌い?」
消え入りそうなくらいに小さな声でそう告げるナマエの、おれのつなぎを握る指先が微かに震えている。
「そんなわけないだろう」
嫌いなわけあるもんか。当たり前だ、おまえはこんなにも愛しいと思える唯一の存在だというのに。おれだって本当は少しでも長くナマエと一緒に過ごしたい。けれどこのままこの部屋に二人きりで居たら、おまえに何をしてしまうか自分でも分からない。
大切にしたい存在のはずなのに、もしも傷付けてしまったら――そう思えば思うほど、おれはナマエに触れることが出来なくなっていた。だが今目の前で小さく震える指先を、見て見ぬフリ出来るほど冷静でもいられなくて。
ゆっくりと後ろを振り返れば、おれの身体にしがみついたまま瞳を潤ませるナマエと目が合った。
「でもっ! だったら何で一緒に居てくれないの?」
「ガキじゃないんだ、一人でも寝られるだろう?」
「……そうだよ、子供じゃないよ……だからっ! ペンギンと居たいの、ダメ?」
そう言って上目遣いでおれの瞳を真っ直ぐ見つめてくるナマエの姿に、身体中を巡る血が沸騰するようなそんな感覚を覚えた。
湧き上がるナマエへの愛おしさと劣情がせめぎ合って、か細い理性の糸を引きちぎりそうになる。
「ナマエ……」
「わたし……ペンギンなら、いいよ?」
「……っ!」
顔を赤く染めながら小さく呟いたナマエの言葉が、脆く儚いおれの理性を一気に吹き消していくのを、真っ白に飛びそうになる意識の中で感じた。
狼、真夜中に吠えるそしてようやく重なった二つの影は、ぼんやりと灯るランプの明かりに照らされ、ゆらゆら揺れながらシーツの波へと飲み込まれていった。
2010.10.13
2013.6.24修正