その他 | ナノ
心身ともに健全な男ですから


――ドンッ!

荒々しい音を立ててナマエが目の前に置いた、夕食のプレートを無言で見つめるおれ。ちらりと、隣の席に座るシャチの食事に目をやれば。ホカホカの湯気が立ち上る、美味しそうなオムライスが視界に飛び込んできた。



「……」

「何? 文句でもあんの?」

「いや、そうじゃないが……」



夢でも見ていたのだろうかと、もう一度自分の目の前に置かれたプレートに視線を戻すが……そこにはやはり、冷えてパサパサになったケチャップライス。

もちろん、ライスを包むはずのふわふわ卵もチキンも無い。ただ、シンプルイズベストを体現したかのような、味のついた米が横たわるだけ。



「嫌なら食べなくてもいいんだからね」

「そうは言ってないだろう?」

「どうだか! おかずが欲しかったら、海賊女帝にでも恵んでもらえばいいんじゃなーい?」



不貞腐れたように口を尖らせるナマエの姿に、ようやくこの不可解な仕打ちの原因に気付いた。



「……ったく、デレデレ鼻の下伸ばしちゃってさ!」



ぶつくさと文句を連ねるナマエの姿に、腹の底から湧き上がってくるのは、愛おしいという感情。昼間のあんな他愛ない一言にヤキモチを妬くなんて……バカだなぁ、ほんと。

そりゃおれも男だから、あの海賊女帝ボア・ハンコックを目の前にして、浮き足立った気持ちが無かったと言えば……嘘になる。いや、むしろ大いにあった。

けどそれは、手の届かぬアイドルへ向けるミーハーな感情のようなものであって、日々おれが感じているナマエへのソレとは全く別物だ。



「……」

「えっ、ちょっ!」



無言で置かれたスプーンを手に取り、ばくばくと冷えたケチャップライスを口に運ぶ。まさか食べるとは思わなかったのか、ナマエが慌てたように声を上げたが、そんなの無視だ。



「ナマエの作るメシは、冷えても美味い」

「なっ……い、イヤミ!?」

「バカ、そんな訳ないだろ」

「……っ」



怒っているのか困っているのか、判断がつかない複雑な表情を浮かべたナマエ。何かを言いかけてから、瞳を揺らして俯いた。



「まさかおれがおまえよりも海賊女帝の方がいいと思ってるなんて、勘違いしてないよな?」

「そ、れはっ……!」

「たとえ世界中が認めたイイ女だとしても、おれが一緒に居たいって思うのはナマエだけなんだがな」

「そん、なの……言ってくんなきゃ分かんないっ」

「すまん」

「……わたしの方こそ、ごめんなさい」

「分かってくれれば、それでいい」



シュンとうなだれるナマエの頭を撫でてやれば、はにかむように微笑んで飛びついてきた。

腕の中に収まる小さな身体を感じながら、あぁやっぱりおれにはこの慣れ親しんだ温もりじゃなきゃな、なんて考えたのは……夜二人きりになった時にでも教えてやろう。




心身ともに健全な男ですから



美人でナイスバディなお姉さんは好きです。
でも、可愛いキミのほうがもっと好きです。




title / にやり
2010.9.3
2013.6.23修正


戻る | *前 | 次#
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -