「ねーペンギン、何でいつもは帽子かぶってるの?」
「何だ、急に」
狭いけれどキレイに整理整頓された、ペンギンの部屋のベッドの上。ごろんと仰向けに寝転びながら、机に向かう恋人に向かって何気ない質問をぶつければ。
カリカリとペンを動かす音は止まぬまま、抑揚のない返事が返ってきた。
「んー…だって気になるんだもん」
「そんなの、船長やシャチだってかぶってるだろう?」
「でもベポはかぶってない」
「ベポは熊だ。それに他のクルーだって、全員がかぶってるわけでもない」
そう言ってやっとこちらを見たペンギンの頭には、普段目深にかぶられている帽子が無い。
「だったら別にペンギンも普段から帽子をかぶることないんじゃないの?」
「ナマエはおれに帽子をかぶって欲しくないのか?」
「そう言うわけじゃないけど……だって、こうやって二人きりの時しか帽子外さないじゃない?」
「あぁ、そうだな」
この話にはあまり興味が無いのか、また机の上の書類に視線を落としたペンギン。何だかそれが面白くなくて、勢い良くベッドから起き上がるとつなぎ姿の無口な背中に抱きついた。
「ねぇ、普段からもっとペンギンの顔が見たいって言ったら……帽子脱いでくれる?」
首もとに顔を埋めながら小さく呟いた声を律儀に拾ったペンギンが、少しだけ驚いたような表情でこちらを見下ろす。
「……あんまり可愛いことを言うな、ナマエ」
手にしていたペンは無造作に机の上に放り投げられ、コロコロと音を立てて転がる。そして向かい合ったペンギンが、空いた両手でわたしの身体を持ち上げるとひょいと膝の上に乗せた。
遮る物が何もないペンギンの両目は真っ直ぐにわたしを捕らえていて、その瞳の中に見つけた自分自身にわずかに頬が熱くなるのを感じる。じっと見つめてくるその瞳に、少しでも気を抜けば吸い込まれてしまいそうで目が離せない。
だんだんと近づく二人の間の距離に、耐えきれず睫毛を震わせた瞬間――少しかさついた唇がそっと触れた。
温かい感触はすぐに離れて、また絡み合う視線。後頭部に回された骨ばった手に少しだけ力が込められて、さっきよりも長く深く触れ合った。
わたしだけ独り占め帽子の無いペンギンの後頭部に、わたしも指を滑らせながら。この髪の毛の感触も帽子の下の表情も、知っているのはわたしだけでいいのかもしれない――そんなことを思ったりした。
2010.8.13
2013.6.23修正