その他 | ナノ
カラフルに崩壊


「ペンギンさん、ペンギンさん!」

「……あぁ、ナマエか。どうした?」

「これコックさんに内緒でもらったの! 一緒に食べませんか?」



そう言ってナマエが差し出してきた包み紙の中には、こんがり焼けたクッキー。



「内緒なのにおれには話しても構わないのか?」

「ペンギンさんはいーんです!」



特別扱いされた事が嬉しくて、でもニコニコと見上げてくる無垢な笑顔が眩しくて……思わず顔を背けてしまった。

そんなおれの様子を気にするでもなく、ほらほら!と小さな身体でおれの腕を引っ張って船尾へと向かうナマエ。吹き抜けた潮風がナマエの柔らかな髪を攫って、クッキーとは違う甘い匂いが鼻先を掠めた。



「……甘い、な」

「うん美味しい!あ、でもペンギンさんと食べるから、余計に美味しいのかな」

「……」



何か返事を返さなくては、と頭の中では分かっているのに上手い言葉が出てこない。そうだな?おれもだ?ありがとう?……あぁ、考えれば考えるほどに分からなくなる。というか、それ以前に何で思い浮かぶのが単語ばかりなんだ、しっかりしろおれ。


ひたすら無言の時間が流れるが、ナマエもそんなおれの反応には慣れっこなのか、満足そうにクッキーをかじっていた。



「あ、次の島って秋島なんですよね? わたし、秋島って好きだな。過ごしやすいし、美味しいものも多いし!」

「……そうか。恐らくログは三日程度で溜まるはずだ」



ナマエが普段から何かとおれを頼りにしてくれたり、慕ってくれているのは分かっているし、嬉しくも思う。けれどおれは、そんなナマエに何も返してやれない。

もちろん必要な技術や知識を教えてやる事は出来るが……それは仲間として、ある意味当然のこと。


いつでも素直に真っすぐな感情をぶつけてくる、ナマエとは正反対のおれ。手を伸ばせばすぐ触れられるほど近くに、ナマエを感じる事が出来るのに。心は何故こんなにも遠いのだろう。



「ペンギンさん? どうかしました?」

「……っいや、何でもない」



つまらない考えに耽っていれば、目と鼻の先にこちらを覗き込むナマエの顔があって、思わず息を飲んだ。



「……ふふっ」

「何だ?」

「ペンギンさんの驚いた顔、かわいいなって」

「……っ! からかうな、バカ」

「そんなんじゃないですよ、嬉しいの!」

「嬉しい?」

「うん! そうだ、よっ……と!」

「あっ、おい! 返せ」



奪ったおれの帽子をくるくる回しながら大きく笑うナマエは、まるで太陽の日差しを浴びて咲き誇る真夏のひまわりのようで。あまりの眩しさに、伸ばしかけた手が一瞬止まる。



「他の人に見せない色んな表情を、わたしにたくさん見せてくれるから……だから、嬉しいの」

「……そう、か? おれは表情に乏しいと思ってたが……」

「ほら、今だって不思議そうな顔してる」

「……それは、ナマエのせいだ」



帽子を脱がされていつもより明るくなった視界に、イタズラを企む子供のような含み笑いを浮かべたナマエが映り込んだ。



「もっとわたしに一喜一憂して下さい。焦ったり怒ったり、泣いたり笑ったり……たくさんわたしに振り回されて?」

「なっ……」



ね?とふんわり笑いながらナマエが帽子を被せる。また近くなった二人の距離、漂うのは潮風と甘いナマエの香り。熱をもった頬は、きっと赤いだろう。




崩れるポーカーフェイス
溢れ出すのは色とりどりの感情





2010.7.29
2013.6.23修正


戻る | *前 | 次#
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -